社会参加と健康長寿
公開日:2020年5月29日 09時00分
更新日:2023年5月31日 10時59分
栗盛 須雅子(くりもり すがこ)
聖徳大学看護学部 教授
1.健康寿命を延ばし、健康長寿を実現
「健康寿命を延ばそう」という声が聞こえるようになってきたのは、21世紀の新しい国民健康づくり運動、「健康日本21(第一次)」が開始された2000年頃からである。その目的の一つとして掲げられたのが、「健康寿命の延伸」だった。その10年後の2010年に行われた全国規模の調査、「国民健康・栄養調査」1)によると、「あなたは健康寿命という言葉を知っていましたか」の質問に対して、「言葉も意味も知っていた」20%、「言葉も意味も知らなかった」65.5%であった。
さらにその10年後の現在のデータはないが、今や、日本列島の隅々から「健康寿命を延ばそう」の大合唱が聞こえてくる。そして、食事、運動、介護予防、フレイル(虚弱)予防、禁煙、健康診査、がん検診、病気の予防、環境など、健康に関係することの多くを「健康寿命の延伸」と結びつけている。
つまり、「健康寿命の延伸」の目的は、「健康長寿」を実現することである。
2.人生100年時代
2019年5月に、厚生労働省は「健康寿命延伸プラン」を策定し、人生100年時代を迎えようとする今、すべての世代が安心できる「全世代型社会保障」の実現のためには、高齢者をはじめとする意欲のある方々が多様な就労・社会参加ができる環境整備を進める必要があり、その前提として健康寿命の延伸を図ることが求められる2)としている。人生100年と考えると、65歳以降の3分の1は、健康寿命を延ばし、健康で孤立せず、社会との関わりをもちながら、健康長寿を実現したいと誰もが考える。
3.日本の健康寿命
では、日本の健康寿命を見てみよう。厚生労働省が発表した2016年の健康寿命(日常生活に制限のない期間)は、男性72.14年、女性74.79年である。さらに、65歳以上の健康寿命はというと、筆者らが算出方法を開発した2016年の健康寿命の一つである障害調整健康余命(DALE: disability adjusted life expectancy)は、65歳男性17.86年、女性20.81年、75歳男性10.37年、女性12.12年である3)。この二つの健康寿命は、種類と算出に用いるデータが異なる。前者は健康上の問題で日常生活に何か影響があると思っている(主観的)人は、健康寿命の計算に入れない。後者は介護保険のデータ(客観的)を使用し、疾病、障害があっても残っている健康な部分は健康寿命の計算に入れる。
「健康寿命延伸プラン」は、人生100年時代を迎えるにあたって、今よりさらに健康寿命を延ばし、より健康な100年を過ごせるようにするためのプランといえる。
4.健康長寿は完全に健康でなければいけないのか
ここで少し立ち止まって、原点に戻り、「健康」を広辞苑で見ると、「身体に悪いところがなく心身がすこやかなこと」、「長寿」は、「寿命が長いこと」となっている。この健康と長寿をつなげると、「身体に悪いところがなく心身がすこやかで、寿命が長いこと」になる。
では、健康長寿とは身体に悪いところがなく、完全に健康でなければいけないのか。そこで、誰もが「身体に悪いところがない高齢者は果たしてどれだけいるのだろうか?」と考える。平成28年国民生活基礎調査4)では、65歳以上の通院者は、千人当たり(千人いると何人いるか)でみると、男性686.7人、女性690.6人、75歳以上では、男性727.8人、女性729.6人である(熊本県を除く)。しかも、それには入院している人は含まない。そして、多少の悪いところはあっても通院しない人もいる。そうすると、「身体に多少の悪いところのある高齢者は7割をはるかに超え、8割以上はいる」と推測できる。
このようなことから、健康長寿とは、身体に悪いところがないと考えるのではなく、多少の悪いところはあっても、自分を健康だと思い(主観的健康感)、自分らしく生活することで、自分をより健康だと思えるようになることといえる。
5.主観的健康感が大切
筆者らが、2007年と2012年に行った調査5)に、2回とも回答した65歳以上の1,007人の5年後の生存率は、主観的健康感でみると、「とても健康」と答えた人は94.4%、「まあまあ健康」92.0%、「あまり健康でない」90.7%、「健康でない」80.2%であり、健康と答えた人は有意に生存率が高かった。また、同様に5年後に介護度2~5の認定を受けていない人の割合は、主観的健康感でみると、「とても健康」88.0%、「まあまあ健康」80.1%、「あまり健康でない」74.1%、「健康でない」53.2%であり、健康と答えた人は有意に認定を受けていない率が高かった。これらの結果も、健康長寿には自分を健康だと思える主観的健康感が大切であることを示している。
6.社会参加の現状
健康長寿のためには人との関わりも大切である。人との関わりの中には社会参加がある。片桐6)は、日本における社会参加の定義をみると、共通する点は他者と交流する行動であり、それ以外は異なる点も多いと述べている。このことから、ここでは、他者と交流する行動を社会参加とする。
内閣府による平成29年版高齢社会白書(概要版)7)の「高齢者の社会参加活動」にある「参加している団体」の参加率をみてみよう(表1)。男女とももっとも高いのは町内会・自治会(男性:30.6%、女性:23.3%)、その次に高いのは男性は健康スポーツのサークル・団体(18.1%)、女性は趣味のサークル・団体(21.3%)であった。
また、内閣府による「平成25年度高齢者の地域社会への参加に関する意識調査結果(概要版)」8)によると、1年間にグループまたは団体で自主的に行われている活動を行ったかとの質問に対して、平成25年度は平成5年度に比べて18.7%高くなっており(60歳以上)、20年間で高齢者の社会参加への関心が高まったことが伺える。その背景には高齢化率や社会経済的状況もあるが、「健康日本21」「健康増進法」「介護保険法」等の政策、法律により、さまざまな取り組みが行われ、予防の意識が高まり、社会参加へとつながったとも考えられる。
団体名 | 男性の参加率(%) | 女性の参加率(%) |
---|---|---|
趣味のサークル・団体 | 15.0 | 21.3 |
健康・スポーツのサークル・団体 | 18.1 | 18.5 |
町内会・自治会 | 30.6 | 23.3 |
ボランティア団体(社会奉仕団体) | 5.5 | 5.2 |
学習・教養のサークル・団体 | 3.5 | 4.9 |
老人クラブ | 10.0 | 11.8 |
退職者の組織(OB会など) | 10.2 | 1.7 |
シルバー人材センター等の生産・就業組織 | 4.4 | 2.0 |
市民活動団体(NPO等) | 1.8 | 1.4 |
女性団体 | - | 4.6 |
宗教団体(講などを含む) | 2.9 | 3.4 |
商工会・同業者団体 | 2.5 | 1.2 |
内閣府「高齢者地域社会への参加に関する意識調査」(平成25年)
注:調査対象は、全国の60歳以上の男女
7.社会参加が健康長寿の実現に結びつく
「平成25年度高齢者の地域社会への参加に関する意識調査結果(概要版)」8)によると、活動全体を通じて参加して良かったと思うのは、男女とも最も高かったのは、「新しい友人を得ることができた」男性44.6%、女性52.4%、次に「生活に充実感ができた」男性41.7%、女性49.6%、「健康や体力に自信がついた」男性41.7%、女性46.6%と続いた(図)。
先述した筆者らが行った2007年と2012年の調査9)に、2回とも回答した65歳以上の1,007人の5年後の死亡について、グループ・地域活動でみると、「している」の死亡率が5%であったのに対し、「していない」が15%と有意に高かった。また、5年後に介護度2~5の認定を受けた人の割合は、同様にみると、「している」は認定が7.1%、「していない」28%と有意に高かった。
社会参加をとおして、新しい友人ができる、生活に充実感が出る、健康や体力に自信がつく、生きがいができるなどの要因が、病気や要介護を予防し、死亡率を低下させ、健康寿命を延伸させて、健康長寿の実現に結びつく。
8.ボランティアと要介護、健康寿命との関連
茨城県では2005(平成17)年から、茨城県立健康プラザの管理者大田仁史氏が考案したシルバーリハビリ体操の指導士養成事業を行っている。受講資格は、おおむね60歳以上の茨城県民で,常勤の仕事をもたず、地域でボランティア活動ができる人とし、公募により、参加者を決定する。養成された指導士は、市町村行政や住民へ働きかけて、主体的に体操普及活動を展開している。2020(令和2)年1月1日現在の指導士の人数は9,154人であり、組織だった大規模なボランティア養成は、他県にはない茨城県独自の活動である。
小澤ら10)は、このボランティア活動と軽度の要介護認定割合(要支援1、要支援2、要介護1)との関連をみると、体操教室に参加した延べ人数が多い市町村ほど、有意に軽度の要介護認定割合が低かったと報告した。さらに、小澤ら11)は、健康寿命とシルバーリハビリ体操の指導士養成人数との関連をみると、70~74歳と75~79歳の年齢階級にて、有意な傾向が認められたと報告した。これらの結果も、社会参加と健康長寿は密接に関連していることを示している。
9.給料をもらって健康寿命を延ばそう
ここでは、一定の給料をもらう就労の面から社会参加を考えてみよう。「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、2013(平成25)年4月1日から施行されている。この改正法は、企業に対し、定年の引き上げ、定年を迎えた高齢者を改めて嘱託や契約社員として再雇用する継続雇用制度の導入、定年廃止を求めている。この改正の主な目的は、厚生年金の支給開始年齢引き上げに伴い、年金が支給されない空白期間を解消するための措置とされているが、要介護を予防し、健康寿命を延伸させ、介護保険サービスの費用(介護給付費)や医療費を適正化(削減)するねらいもあると考える。
ただ、現実的には、これまで要職にあった人が再雇用により、部下だった人の下で働くことになったり、子会社や関連会社などへの異動を余儀なくされたり、これまでとは大きく異なる職場環境になり、働きづらさやストレスから、雇用期間を残して退職をするケースも少なくない。
しかし、このような考え方もできるのではないか。「給料をもらって健康寿命を延ばしている。健康長寿を実現できる」と。
10.身体的に就労は何歳までできるか
実際、身体的には何歳まで就労が可能か。筆者らは、介護保険データを用いて、要介護度に重み付けをし、それぞれの要介護度で残っている健康な部分を除外するという特徴をもった高齢者の健康度を示す、加重障害保有割合(WDP:weighted disability prevalence)という指標を開発した。その指標は障害の程度(障害をもつ人の割合)を示す指標であるため、値が低い方が健康度が高い。
2018(平成30)年の日本全国の障害をもつ人の割合(WDP)の値を千人当たり(千人いると何人いるか)でみると3)、65~69歳男性13.70人、女性10.43人、70~74歳男性27.18人、女性24.36人、75~79歳男性49.94人、女性56.40人である。ところが、80~84歳では男性95.35人、女性127.24人と、75~79歳との差が男性45.41人、女性70.84人と、一気に高くなる(表2)。この健康度からは、75~79歳までは就労が可能と推察できる。もちろんだが、「働けるうちはいつまでも」働き、就労という社会参加で健康長寿を実現することも可能である。
積極的に社会参加し、自分を健康だと思い、いきいきと自分らしい生活をして、健康寿命を延ばし、健康長寿を実現したい。
男性 | 女性 | 1年齢階級若い年齢階級との差(男性) | 1年齢階級若い年齢階級との差(女性) | |
---|---|---|---|---|
65~69歳 | 13.70 | 10.43 | - | - |
70~74歳 | 27.18 | 24.36 | 13.48 | 13.93 |
75~79歳 | 49.94 | 56.40 | 22.76 | 32.04 |
80~84歳 | 95.35 | 127.24 | 45.41 | 70.84 |
85~89歳 | 176.84 | 245.36 | 81.49 | 118.12 |
90~94歳 | 289.00 | 383.02 | 112.16 | 137.66 |
3)より作成
文献
- 栗盛須雅子, 福田吉治, 星 旦二 他. 令和元年度47都道府県と茨城県44市町村の健康寿命(余命)に関する調査研究報告書.茨城県,茨城県立健康プラザ,(公財)茨城県総合健診協会 2020
- 栗盛須雅子 他. 平成28年度今帰仁村健康長寿村プロジェクト分析解析報告書.沖縄県今帰仁村,国立大学法人琉球大学,沖縄県,2017年,p.134
- 片桐恵子:退職シニアと社会参加.財団法人東京大学出版会,東京都,2012年,p.36
- 栗盛須雅子 他. 平成28年度 今帰仁村健康長寿村プロジェクト分析解析報告書.沖縄県今帰仁村,国立大学法人琉球大学,沖縄県,2017年,p.147
- 小澤多賀子,田中喜代次,栗盛須雅子 他.高齢ボランティアによる介護予防体操の普及活動が要介護認定状況に及ぼす影響.厚生の指標2017;13:9‐15
- 小澤多賀子,栗盛須雅子,田中喜代次 他.高齢のボランティさによる介護予防体操普及活動と健康寿命との関連について.社会医学研究2020;37(1):15-22
筆者
- 栗盛 須雅子(くりもり すがこ)
- 聖徳大学看護学部 教授
- 最終学歴
- 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科環境社会医歯学系健康推進医学分野専攻博士課程 修了(博士(医学))
- 略歴
- 2001年 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科非常勤講師、2005年 東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻健康社会学分野客員研究員、2006年 国際医療福祉大学在宅地域ケア研究センター講師、2007年 早稲田大学アジア研究機構琉球・沖縄研究所客員研究員、2008年 茨城県立健康プラザ健康づくり情報部研究員(併任)、首都大学東京大学院都市環境科学研究科非常勤講師、2010年 茨城キリスト教大学看護学部准教授、2011年 茨城キリスト教大学大学院看護学研究科准教授、2013年 日本保健医療大学保健医療学部看護学科教授、2015年 聖徳大学看護学部看護学科教授(現職)、2019年 放送大学大学院分担協力講師(併任)。
- 専門分野
- 公衆衛生学、健康推進医学、疫学、政策疫学、健康増進計画等策定