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まちの賑わいをつくり出す 日の里団地再生プロジェクト(福岡県宗像市 ひのさと48)

公開日:2025年1月17日 15時00分
更新日:2025年1月17日 15時00分

高度経済成長期につくられた大規模団地が抱える課題

 高度経済成長期に開発された大規模団地の多くは、年月を経て、建物の老朽化や住民の高齢化、空き家の増加が顕著となり、少子高齢化・人口減少時代に対応した団地再生が課題となっている。

 そのような中、福岡県宗像市にある日の里団地の再生プロジェクトが注目されている。中でも2021年にオープンしたコミュニティ施設「ひのさと48」はプロジェクトの象徴的存在だ(写真1)。解体予定だった1棟をまるごとリノベーションした施設で、コミュニティカフェ、ビール醸造所、DIY工房、保育園などが入居し、地域コミュニティ形成に貢献している。

"次の50年"を見据えた団地再生プロジェクト

 日の里団地は1971年に日本住宅公団(現・都市再生機構:UR)によって宗像市に開発された九州最大級の団地。最寄り駅のJR東郷駅はJR博多駅から快速電車で約30分、JR小倉駅から約35分で、2つの大都市のベッドタウンとして開発された。1993年の最盛期には1万4千人を超える人々が暮らしていたが、その後20年間で2千人以上が減少、高齢化率は35%を超えている(2022年データ)。団地内でも高齢化率に差があり、25%ほどの地区もあれば50%を超える地区もあるという。

 2017年にはおよそ70棟あるうち、老朽化が進んだ10棟を解体することが決まった。解体後の広大な敷地は単に住宅メーカーに売却するのではなく、地域住民の意見を取り入れながら、日の里団地全体の活性化につながる開発を進めることになった。敷地の譲渡事業者を公募し、住宅メーカーやインフラ会社など10社でつくる共同体に譲渡先が決定。2020年3月には宗像市、UR、共同体で連携協定が結ばれ、"次の50年"を見据えた団地再生プロジェクトが始動した。再開発の構想には、住民主体のワークショップで寄せられた「多世代が交流できる場所」「緑豊かな空間」などの意見や要望が反映されているという。

多世代交流の核となる施設「ひのさと48」

 団地再生プロジェクトは「コミュニティ施設エリア」と「戸建てエリア」で構成される。解体が決定していた10棟のうち1棟(48号棟)は残し、手づくりでリノベーションを施し、2021年からコミュニティ施設「ひのさと48」として活用している(図)。他の9棟を解体してできた敷地には、里山をイメージした森の中に64戸の戸建てをつくり、2022年から分譲し、ほぼ完売となっている。

 戸建てエリアのコンセプトがユニークだ。一切道路をつくらず、里山と呼ばれる緑地を中央に1本通し、すべての戸建てが緑に接するように配置されている。里山緑地は64戸でつくる管理組合を法人化して管理され、一般にも解放された公園のような憩いの空間となっている。

 戸建てエリアを後ろから見守るように「ひのさと48」があり、その周りには築50年を超える日の里団地およそ60棟が広がる。「ひのさと48」は、戸建てエリアの新しい住民と旧来からの団地住民をつなげる多世代交流の核となる場所となっている。

地域の会話量が増える場所を目指して

 「ひのさと48」の48号棟は、西部ガスホールディングス株式会社と東邦レオ株式会社によってつくられた特定目的会社により所有管理されている。西部ガスは都市ガス会社で地域貢献の理念に基づきタウンマネジメント事業を行い、東邦レオは建築緑化をベースにしたコミュニティ・まちづくりを行う会社。特定目的会社が48号棟をリノベーションし、東邦レオが「ひのさと48」を一括借り上げし、テナントに転貸借契約を行う運営方法だ。管理運営は東邦レオに委託され、西部ガスと連携して行っている。

 東邦レオの三澤貴大さんは、「『ひのさと48』のコンセプトは、"地域の会話量が増える場所"です。日々の小さなニュースをつくることを目標としています」と話す。例えば、「ひのさと48」の外観で目を引く色鮮やかなパネルは、地域住民の手でペイントされたもの(写真1)。「ご自身が塗ったパネルに愛着を持ち、より身近な場所として感じてもらえると思っています」(三澤さん)。

写真1、「ひのさと48」の外観の写真。色鮮やかなパネルが印象的。
写真1 「ひのさと48」の外観。色鮮やかなパネルが印象的

ワクワクをつくる個性豊かなコミュニティ施設

 「ひのさと48」には個性豊かな施設が入居している(図)。1階の101号室には、日本初の団地の一室を使ったクラフトビール醸造所「ひのさとブリュワリー」(写真2)。「コミュニティをつくるツールとしてビールは効果的」と三澤さんが言うように、ビール醸造を通して、地域の新しい結びつきが生まれている。オリジナルビール「さとのBEER」(写真3)には宗像で栽培された大麦ホップを使用。ビールは1か月ほどで製造できるため、月替わりでビールができあがる。例えば、宗像産の塩、甘夏、コーヒー、山椒を使ったビールなど、地元の生産者や企業、自治体などとコラボレーションしてつくっている。月替わりビールを楽しみに待つお客さんが多く、地産地消ビールは生産農家とお客さんをつなぐ役割も担っている。

図、「ひのさと48」の施設一覧を表す図。
図 「ひのさと48」の施設一覧
(「オルタナティブスペース」「宿泊施設」は以前検討のもの)(資料提供:ひのさと48)
写真2、日本初の団地の一室を使った「ひのさとブリュワリー」の醸造所内の写真。
写真2 日本初の団地の一室を使った「ひのさとブリュワリー」
写真3、「さとのBEER」の写真。これまでに40種類以上を販売した。
写真3 「さとのBEER」はこれまでに40種類以上

 102号室にはDIY工房「じゃじゃうま工房」。最新の木材加工機Shopbotで、「こんなものがあったら面白いかも」というアイデアを形にする。各店舗の入り口に掲げてある廃材を利用した看板はShopbotで制作したものだ。

 103号室にはコミュニティカフェ「みどりtoゆかり日の里」。地元の野菜を使った体に優しい食事を提供している(写真4)。子連れのお母さんたちがランチを楽しむ姿があり、畳スペースもあるから赤ちゃん連れも安心だ(写真5)。放課後には駄菓子を目当てに子どもたちが集まってくる。「さとのBEER」の生ビールを飲めるのはカフェだけの特典だ。常連客だというシニアの方が珈琲を飲みながらスタッフと世間話をする姿もあった。カフェはゆるやかな見守り役も担っているようだ。

写真4、「みどりtoゆかり日の里」の地元食材を使った日替わりランチの写真。
写真4 「みどりtoゆかり日の里」の地元食材を使った日替わりランチ
写真5、「みどりtoゆかり日の里」の畳スペースの写真。赤ちゃん連れも安心して利用できる。
写真5 カフェの畳スペースは赤ちゃん連れにも安心
(画像提供:ひのさと48)

 104号室のレンタルスペース「箱とKITCHEN」は、誰もが使えるセカンドキッチン。ガス会社の西部ガスにとってキッチン設備は専門分野。ワークショップ、料理教室、開業を検討している人のためのチャレンジの場などとして活用され、食を通じた地域交流が生まれている。

 2階の203・204号室にはCo-Doingスペース「さとのひWONDER BASE」。従来のCo-workingではなく、Co-Doing(共創・協働)を目的としたスペース。仕事だけでなく、趣味・活動に周囲の人を巻き込んで新たな活動を共に起こすことを目指している。

 以上が、プロジェクトが運営する施設となる。

「ひのさと48」を盛り上げる"さとの仲間"たち

 「ひのさと48」に出店するテナントを"さとの仲間"と呼んでいる。
 105・106号室・206号室には「ひのさと48」開設に先駆けて開園した「ひかり幼育園 ひのさと分園」、201・202号室には子どもたちの発達支援を行う活動拠点「げんきっこくらぶ るーつ」。宗像市から「ぜひ保育施設を」という要望を受け、プロジェクトに共感した施設が入居している。301号室には写真スタジオ「ジュビリーフォトス」、304号室にはドーナツ型焼き菓子の「もぐもぐポケットドーナツ&グランジュール」、305号室には食育と有機農業の大切さを伝える場所「オーガニックパパ」、505号室にはウクレレ製作工房「四弦舎」。

 「ひのさと48」にはまだ空室があり、一緒に地域を盛り上げる"さとの仲間"を募集中だという。

地域の人を主役にした活動のあれこれ

 プロジェクトの一環として行った日の里小中学校での総合学習の授業では、団地を面白くする自由なアイデアを募った。そこで出たアイデアのひとつが「団地の壁を使ってクライミングをやってみたい!」。子どもたちのアイデアを実現しようと、クラウドファンディングで資金を集めた。目標の200万円を大きく上回る資金を集め、2021年10月にクライミングウォールが完成した(写真6)。付き添いのスタッフがいる週末には、クライミングにチャレンジする子どもたちで賑わうという。

写真6、子どもたちのアイデアを実現したクライミングウォールの写真。
写真6 子どもたちのアイデアを実現したクライミングウォール

 高齢者の生活支援としては、移動スーパー「とくし丸」を団地の駐車場に呼ぶ取り組みをしている。日の里団地周辺には商業施設が点在しており、棟によっては買い物に30分以上歩く人もいる。そうした近隣住民の声を取り入れて始めた取り組みだ。

 「とくし丸さんが来る前から、高齢の方などは駐車場に並んで待っています。膝が悪くて買い物に出かけられない方など、毎回利用する方は決まっているという感じです。移動スーパーでの買い物を楽しみにされているようです」(三澤さん)。

 「おでかけ48」も高齢者の生活支援のひとつ。「ひのさと48」から飛び出して、団地住民に会いにいく。URの協力のもと、月1回、日の里団地集会所に出張し、「みどりtoゆかり日の里」のお弁当や地元農家の野菜を販売。コミュニティナースによる健康相談もあり、日々の暮らしで困っていることや悩み事を聞くという取り組みを、西部ガスが主体となって行っている(写真7)。

写真7、「ひのさと48」から出張して高齢者に会いにいく「おでかけ48」の写真。
写真7 出張して高齢者に会いにいく「おでかけ48」
(画像提供:ひのさと48)

ハイブリッド型団地再生でまちの賑わい、まちの多様性を紡ぐ

 築50年超の既存棟の活用と新築戸建ての販売というハイブリッド型団地再生プロジェクトは「宗像・日の里モデル」と呼ばれ、全国から視察や取材依頼が絶えない。

 「同じようなモデルをやってみたいという話をいただきますが、このプロジェクトは日の里団地のニーズに合わせた事業です。地域それぞれにニーズがあり、住む人も違えば、産業構造も違います。いろいろな解き方がある中で、その土地に合った地域再生の手法が大事になると思います」と三澤さんは言う。

 印象的だったのは、気さくに声を掛けてくれる子どもたちの明るい笑顔。団地内に響く子どもたちの賑やかな声は50年前のまちびらき当時と変わらない光景だろう。「ひのさと48」を核に、旧来からの住民と新しい住民のゆるやかな交流を生み出し、新規ビジネスにチャレンジする人々も集まり、まちの賑わい、まちの多様性を紡いでいく。日の里団地再生プロジェクトは持続可能なコミュニティ再生の素晴らしいモデルである。

参考文献

  • 山田雄三(監修), ひのさと記憶プロジェクト実行委員会(編), ニュータウンのあの頃とこれから―日の里団地1971-2021. 弦書房, 2022.

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2025年 第33巻第4号(PDF:4.5MB)(新しいウィンドウが開きます)

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