認知症の中核症状
公開日:2016年7月26日 11時00分
更新日:2019年11月 8日 15時54分
認知症の中核症状とは
認知症で、脳の細胞が死ぬ、脳の働きが低下することによって直接的に起こる記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、言語障害(失語)、失行・失認などの認知機能の障害を中核症状と言います。
中核症状が本来の性格や本人を取り巻く環境などに影響して現れる妄想、抑うつ、興奮、徘徊、不眠、幻覚、意欲の低下などの精神機能や行動の症状を周辺症状と言います(図)。
記憶障害
認知症で早くからみられる障害では、新しいことを覚えられなくなり、さっき聞いたこと、したことを記憶することが難しくなります。次第に、覚えていたことも忘れるようになっていきますが、自分が子供の頃の記憶など、昔の出来事は比較的覚えています。
見当識障害
見当識とは今がいつ(時間、年月日、季節)で、ここがどこ(場所、何をしているのか)という、自分が今、置かれている状況を把握することです。自分と他人との関係性の把握も見当識に含まれます。
見当識の「いつ」が障害されると、今が何時なのかがわからなくなり、「約束の時間を守れない」、「予定通りに行動することができない」などがみられます。「今日が何月何日なのか」、「自分は何歳なのか」ということもわからなくなり、季節感も薄れて、「季節に合わない服装をする」ことがみられます。
「どこ」が障害されると、「道に迷う」ことや、「自分の家のトイレの場所がわからなくなる」、「ものすごく遠いところに歩いてでかけようとする」ことなどがみられます。
自分と他人との関係性が障害されると、自分と家族との関係や、過去に亡くなったという事実もわからなくなり、「自分の息子を『お父さん』と呼ぶ」ことや、「亡くなった親に会いに行くと言う」ことなどがみられます。
理解・判断力の低下
理解することに時間がかかるようになり、情報を処理する能力も低下して、一度に2つ以上のことを言われる、早口で言われると理解することが難しくなります。いつもとは違う出来事が起こると対応できず、混乱することがみられます。
目に見えないものが理解しにくく、自動販売機や駅の自動改札機、銀行のATMなどを前にすると、どうすれば良いのかがわからなくなります。
あいまいな表現も理解・判断しにくく、例えば「暖かい恰好をしてね」と言われても理解できず、「セーターとコートを着てね」と具体的な指示が必要になります。善悪の判断もつきにくくなります。
実行機能障害
実行機能障害とは、物事を行う時に計画を立て、順序立てて効率良く行うことが難しくなります。
食事の支度をする時には、冷蔵庫にあるものを確認してメニューを考え、足りないものを買い出しに行き、冷蔵庫にあるものと合わせて、予定していたメニューをつくることを一連の流れとして行います。買おうとしていたものがスーパーで売っていなくても、他のもので代用するなど、予想外のことが起こっても他の手段を考えて適切な対処ができます。料理をする時は先に炊飯器のスイッチを押しておき、その間におかずを作るなど、効率を考えて同時に進めていくことができますが、実行機能障害では、「○○と△△でみそ汁を作る」、「炊飯器のスイッチを押す」ことはできても、必要な情報を統合して遂行することが難しくなります。
言語障害(失語)
言葉の理解・表出が難しくなります。音として聞こえていても、ことば、話として理解できない、自分が思っていることを言葉として表現する、相手に伝わるように話すことが難しくなります。
失行・失認
失行は、「お茶を入れる」、「服を着る」、「スプーンを使ってご飯を食べる」など日常的に行っていた動作や物の操作が運動機能の障害がないにもかかわらず行えなくなります。
失認は、自分の身体の状態や自分と物との位置関係、目の前にあるものが何かを認識することが難しくなることです。半側空間失認では、自分の身体の半分(左側または右側)の空間が認識できず、「ご飯を半側だけ残す」、「片方の腕の袖を通し忘れる」などがみられます。
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公益財団法人長寿科学振興財団は超高齢社会における喫緊の課題として認知症の実態、診断・予防・ケアについて学術的研究成果を「認知症の予防とケア」と題して研究業績集にまとめました。研究業績集の内容を財団ホームページにて公開しております。是非ご覧ください。
公益財団法人長寿科学振興財団 「認知症の予防とケア」平成30年度 業績集