義歯による痛み
公開日:2017年7月 5日 10時35分
更新日:2019年6月21日 11時36分
高齢の義歯使用者では、顎堤(がくてい)※が退縮し、顎堤粘膜も薄くなっているために、義歯の安定性や維持力の基盤が失われ、義歯による痛みを訴えがちです(図1~3)。
ことに義歯床の下の粘膜が薄くなると咬みあう時の圧力を分散させることができず、そのまま顎の骨に伝わるため、骨組織の負担を増大させます。加えて咬合時の衝撃によって硬い義歯と顎の骨に挟まれた薄い粘膜が傷つき、痛みを発することになりがちです。
義歯は食事や外見など生活の質に大きく関わるものです。また、義歯の痛みはその使用を妨げる大きな要因と考えられます。高齢になるほど、義歯の安定には条件が悪くなることが多く、高齢社会を迎えた我が国では大きな問題です。
ここから義歯の痛みの原因、対処法などについて説明します。
- ※ 顎堤(がくてい):
- 顎堤とは、歯が生える、あるいは生えていた土手状に盛り上がった歯肉の部分のこと。
義歯による痛みの原因
顎堤などの口腔内の形態の問題
先に述べたように顎堤が退縮したり、骨隆起や小帯異常などがあると義歯の安定が悪くなり、痛みも出現しやすくなります。
食事の問題
新しい義歯を装着したばかりの時期に、硬い食べ物や厚みのある食べ物を食べると、痛みを生じる場合があります。最初は豆腐、煮魚、野菜の煮物など、やわらかいものを奥歯でゆっくり食べる必要があります。慣れてくると、たいていのものは食べられますが、ご自身の歯の時のようにはいかないことが多いようです。
咬合(咬みあわせ)の問題
咬みあわせが悪いと、義歯が不安定になり、がたつくと、ある特定の部分に義歯が強く当たるようになります。そうなると痛みが出現します。また食べ物が噛み切りにくかったりすると、顎が疲れやすくなります。
唾液の問題
唾液は義歯の安定に非常に重要で、義歯と粘膜の間で潤滑油の働きをしています。適合の良い義歯を作っても、粘膜がカサカサした状態ですと、擦れることで痛みがでたり、図4のように潰瘍(口内炎)を作ります。
適合・設計の問題
これは製作する歯科医師側の問題ですが、当然、不適合な義歯では痛みがでます。
残存歯(残っている歯)の問題
義歯のバネによる締め付けがきついと、バネがかかった歯に痛みが生じます。また、その歯に問題があると痛みが出やすくなります。
痛みへの対策、予防法
上記のような原因への対処が必要です。義歯による痛みは、違和感程度であれば慣れると解決する場合もありますが、長期間放置しておくことはよくありません。
義歯による痛みは我慢するとさらに傷が大きくなり、症状が悪化する場合があります。新しい義歯をいれると、ほとんどの痛みは翌日~1週間のうちに発生します。「必ずどこか痛みはでる」というつもりで、はじめての義歯で食事を数回行った後は必ず一度歯科医院で義歯の調節を受けましょう。
義歯を24時間口腔内に装着したままにしたり、不潔にしておくと、図5のようにカンジダ菌(カビの一種)が繁殖する場合もあり痛みの原因になります。高齢者や寝たきりの方にみられますが肺炎などの全身疾患につながることもあり、注意が必要です。
以上のように義歯で痛みがあるようでしたら、独断で放置せず、必ず、歯科医院を受診して、調整・指導を受けてください。