高齢者に対する排尿管理・ケアの実際
公開日:2020年10月30日 09時00分
更新日:2024年8月14日 10時13分
こちらの記事は下記より転載しました。
横山 剛志(よこやま つよし)
国立長寿医療研究センター看護部副看護師長
はじめに
高齢者の多くが排尿障害(下部尿路機能障害)を有している。排尿障害そのものが問題となるだけではなく、日常生活への影響も大きく、在宅での生活から施設入所を検討する要因でもある。そのため、適切な排尿管理・ケアが求められる。
1999年に愛知県で実施された排尿障害の実態調査で、尿道留置カテーテルやおむつの不適切な使用が報告された1)。その後、排尿管理・ケアの啓発活動が全国各地で行われた。しかし、2013年に行われた排尿障害の実態調査で、その実態が改善されていないことがわかった2)。そんな中、2016年度の診療報酬改定で「排尿自立指導料」、2018年度の介護報酬改定で「排せつ支援加算」が創設され、適切な排尿管理・ケアによる効果も報告されている。
そこで本稿では、前述の背景を踏まえながら、適切な高齢者に対する排尿管理・ケアの実際について解説する。
排尿障害のアセスメントの実際
排尿障害のアセスメントでは、実際に「問診と観察」、「排尿日誌」、「残尿測定」の3つを実践している。各実践方法とその根拠について解説する。
1. 問診と観察
問診・観察では、排尿に関する情報だけでなく、表1のように認知機能やADLなどあらゆる情報を収集する。排尿という行為は、「蓄尿→尿意を感じる→我慢する→排尿しようと思う→行動を起こす→排尿する→後始末をする」という排尿サークルを繰り返している(図1)3)。そして、この中のどの行為ができなくても排尿サークルが止まってしまい、排尿障害が発生する(図2)3)。排尿障害は、泌尿器科的な尿道・膀胱の下部尿路機能障害が原因だけではなく、認知症やADL障害、意識障害などでも発生する。
表1 問診と観察
- 何に困っているのか
- 今後の希望
- 年齢
- 性別
- 既往歴
- 内服薬
- 認知機能
- ADL
- 蓄尿症状(頻尿や尿失禁など)
- 排尿症状(排尿困難や尿閉など)
- 排便の状態
- 皮膚の状態
- 飲水状況
- 精神状態
- 生活環境
- 1日の過ごし方
- 社会資源
また、ここで重要なのは「何に困っているのか」と「今後の希望」である。高齢者では、排尿障害を治癒することだけが目標ではなく、排尿障害があることで起こる生活の問題とその問題をどのように解決したいのかを明確にすることが大切である。
2. 排尿日誌
排尿日誌は、排尿状態を客観的に把握するためのツールである。さまざまな様式があるが、ここでは日本排尿機能学会が提供しているものを紹介する(図3)4)。排尿ごとに採尿し、排尿時間、尿失禁量、尿意切迫感、1回排尿量、飲水量などを記録する。これを2~3日間記載することで、排尿パターンなどを把握できる。
排尿日誌は、自分で採尿し記録できる高齢者であれば比較的容易であるが、介助の必要な高齢者では手間がかかるため嫌厭(けんえん)されがちである。しかし、現場でよく遭遇する頻尿では、排尿回数が同じでも1回の排尿量や1日の尿量などによって対処やケアは異なるため、可能な限り実践することが必要である。
3. 残尿測定
残尿測定とは、排尿後の膀胱内に残った尿量を測定することである。膀胱に尿を十分ためられない蓄尿障害と膀胱内の尿を十分出し切れない尿排出障害を鑑別するために必要である。蓄尿障害はQOL疾患であるが、尿排出障害は、尿路感染症や腎機能障害など、生命に関わる合併症を伴う場合がある。後述するが、蓄尿障害と尿排出障害ではその後の対処・ケアが異なる。
残尿量は100mL以上であれば泌尿器科医へ相談することが必要である。超音波画像診断装置(図4)を使用すれば非侵襲的に数秒で測定が可能であり、適切な排尿管理・ケアの実践には必要不可欠である。以前は、超音波画像診断装置はかなり高価であったが、現在さまざまな機能・価格帯で選択可能である。
高齢者に多い尿失禁の中には、溢流性(いつりゅうせい)尿失禁があり、これは膀胱にためた尿を排出することができずに尿が尿道より常に漏れている状態である。また、頻尿は、過活動膀胱(急に起こる、我慢できないくらいの強い尿意である尿意切迫感を主症状として、頻尿や切迫性尿失禁を伴う症状症候群)のような蓄尿障害が原因のこともあるが、尿排出障害で発生していることもある。例えば、400mL尿がたまっていても、100mLしか排尿できないと、残尿は300mLとなる。残尿が多いと次にたまる尿の量が少なく、たまるまでの時間が短いため頻尿となる。
排尿管理・ケアの実際
1.蓄尿障害の排尿管理・ケア
(1)骨盤底筋訓練
骨盤底筋訓練の目的は、骨盤底筋群の強化により尿道閉鎖圧の増強と、腹圧上昇時に骨盤底筋群を随意的に収縮する方法の習得である。咳やくしゃみなど腹圧の上昇時に起こる腹圧性尿失禁や過活動膀胱に有効とされている。
実際には、膣や肛門を締めたり、緩めたりすることを反復する。臥位(がい)、立位、座位などのさまざまな姿勢で患者に合わせて施行可能である。
骨盤底筋訓練は副作用もなくコストもかからないことがメリットである一方、デメリットとして本人も指導する側も骨盤底筋が上手く収縮できているかを容易に目視ができないことや、効果が出るのに数か月かかることである。そのため、高齢者では継続がむずかしいこともある。
(2)膀胱訓練
膀胱訓練は、尿意を我慢し、少しずつ膀胱にためられる尿量を増やし、排尿間隔を延ばす行動療法である。過活動膀胱に有効とされている。尿路感染症や残尿が多い場合はその悪化の可能性があるため禁忌である。
排尿日誌で排尿間隔や排尿パターンを把握し、普段排尿するタイミングよりも10~15分ずつ我慢する。また、我慢する膀胱内尿量の目標を設定し、超音波画像診断装置で膀胱内の尿量を見ながら実践することも効果的である。さらに、何か他に集中させることで、尿意を紛らわせることなどの工夫も必要である。
(3)排尿誘導
排尿誘導は、排泄の自立や維持を目的に、トイレへ誘導することである。認知機能やADLの障害による機能性尿失禁に有効とされている。
①あらかじめ決めておいた一定の時間でトイレへ誘導する定時誘導(Timed Voiding)、②排尿日誌で患者の排尿パターンを把握したうえで誘導する排尿習慣化訓練(Habit Training)、③排尿パターンを把握した患者に、排尿の意向を伝えてもらい、排尿時間になったら、患者の排尿の意思、尿意の有無を尋ね、尿失禁なく排尿できた場合に賞賛し、排尿を自発的に伝える能力を獲得する排尿自覚刺激行動療法(Prompted Voiding)──の3つの方法がある。
(4)生活指導
過活動膀胱による頻尿には、一般的に1日の尿量が20~25mL/kg(体重)となるように飲水量を調節することが推奨されている5)。ただし、腎障害や心不全などの飲水制限がある場合はかかりつけ医の指示を遵守する。
また、食事の水分量、気温や運動量、発熱などへの注意が必要である。夜間頻尿、夜間多尿では、夕食後の飲水過多、アルコール、カフェインを多く含む飲料水を控えるようにする。その他、塩分制限や夕方の運動、下肢を挙上した30分以内の午睡や日光浴、弾性ストッキングなども有効とされている5)。
2.尿排出障害の排尿管理・ケア
尿排出障害では、カテーテルを用いて尿を体外に排出する必要がある。尿道カテーテルには、尿道留置カテーテルと清潔間欠導尿、間欠式バルーンカテーテルがあり、それぞれのメリット、デメリットをよく理解し、その高齢者に適した方法を選択する必要がある。
(1)尿道留置カテーテル
尿道留置カテーテルの適応は表2の通りである6)。管理する際には、カテーテルの屈曲やねじれがないように、排液バッグは膀胱より低い位置にすること、陰部の清潔保持など適切に管理することが必要である。
尿道留置カテーテルは、挿入されていることで、頻尿、尿失禁、尿排出障害などの下部尿路症状はなくなり、すべてが解決したかのようにみえる。しかし、尿路感染症や萎縮膀胱、尿路結石などのような合併症があるため、原則表2の適応がなくなった時点で尿道留置カテーテルは早期に抜去すべきである。
(2)清潔間欠導尿
定期的に尿道カテーテルを挿入し、尿を体外に排出する方法である。表3のように尿道留置カテーテルより合併症のリスクが低く、何より下部尿路機能の回復がわかる。カテーテルはディスポーザブル型、再利用型に大きく分かれる。また親水性コーティングやコンパクトタイプなどの高機能なものもあり、本人が使いやすいものを選択する必要がある。
間欠導尿 | 尿道留置カテーテル | |
---|---|---|
尿路感染症 ※発熱等の有症性 |
低い | 高い |
萎縮膀胱 | 低い | 高い |
尿路結石 | 低い | 高い |
拘束感 | 低い | 高い |
カテーテル操作 | 毎回必要 | 定期的な交換が必要 |
在宅での負担 | 大きい? | 小さい? |
下部尿路機能の回復 | わかる | わからない |
導尿のタイミングは表4を参考に行うとよい7)。清潔間欠導尿では無菌操作は不必要である。定期的に導尿を行い、膀胱に尿をため過ぎないことが感染予防にもつながる。
(3)間欠式バルーンカテーテル
間欠式バルーンカテーテルは、清潔間欠導尿を行いながら、夜間など清潔間欠導尿ができない時間のみ間欠式バルーンカテーテルを留置する方法である。実際、「夜間多尿のため導尿回数が多く眠れない」「夜間は家族で清潔間欠導尿は可能だが、昼間は仕事で不在のため昼間のみ間欠式バルーンを使用」などの症例で使用している。しかし、特殊なカテーテルのため、手順や操作が容易ではなく、高齢者では修得が困難なこともある。
おわりに
排尿障害は、泌尿器科疾患以外でも発生する。また、不適切な排尿管理・ケアはQOLを低下させるだけでなく、生命予後にも影響すると考えられる。前述の排尿サークルにあるように、さまざまな動作、場面での介入が必要であるため、多職種での連携・介入も欠かせない。個々の患者に応じた適切な排尿管理・ケアが必要である。
文献
- 後藤百万, 吉川羊子, 小野佳成 他:老人施設における高齢者排尿管理に関する 実態と今後の戦略 アンケートおよび訪問聴き取り調査.日本神経因性膀胱学会誌 2001;12:207-222.
- 吉田正貴, 野尻佳克, 大菅陽子 他:高齢者排尿障害に対するケアの現状.日本老年泌尿器科学会誌 2013;26:115-118.
- 野尻佳克:病院での排尿管理.高齢者の排泄ケア. 長寿科学振興財団,2007, 171-178.
- 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編.夜間頻尿診療ガイドライン[第2版].リッチヒルメディカル, 2020, 130-133.
- 田中純子:排尿管理.下部尿路機能障害へのアプローチ(後藤百万編),中外医学社, 2007, 73-84.
- 鈴木基文・青木芳隆監修,日本排尿デザイン研究所編.みんなで取り組む排尿管理 チーム作りから実践指導事例まで. 日本医療企画, 2018, 23.
筆者
- 横山 剛志(よこやま つよし)
- 国立長寿医療研究センター看護部副看護師長
- 略歴
- 2002年:国立金沢病院附属金沢看護学校卒業、国立療養所中部病院(現・国立長寿医療研究センター)看護師、2009年より現職、2016年:愛知医科大学大学院看護学研究科修了(看護学修士)
- 専門分野
- 高齢者の排尿管理・ケア
転載元
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