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多職種連携の実際と課題―ACPファシリテーターの役割―

公開日:2021年1月29日 09時00分
更新日:2024年8月14日 10時06分

西川 満則(にしかわ みつのり)
国立長寿医療研究センター緩和ケア診療部医師


はじめに

 2018年3月に改訂された「⼈⽣の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省)1)において、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の実践と普及が明⽂化され、医療ケアの現場でACPの重要性が⼀層認識されるようになった。

 2019年6月に日本老年医学会から発表された、「ACP推進に関する提言」2)には、ACPとは、将来の医療・ケアについて、本⼈を⼈として尊重した意思決定の実現を支援するプロセスであると書かれている。

 本稿では、「多職種連携の実際と課題─ACPファシリテーターの役割─」を述べるため、まず、多職種連携、ACPファシリテーターについて解説した後、ACPの4つの段階を操作的に定義し、そのうえで5つの切り口で論じる。

 5つの切り口とは、「自由に語る権利」「ACPの準備性」「ACPコミュニケーションスキル」「臨床倫理的アプローチ」「命と希望をつなぐInformation and Communication Technology:ICT連携」である。この5つの切り口を通して、「多職種連携の実際と課題─ACPファシリテーターの役割─」について述べる。

多職種連携

 厚⽣労働省は、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを⼈⽣の最期まで続けることができるよう、地域における医療介護関係機関が連携して、包括的かつ継続的な医療・ケアのための体制整備を推進している。

 多種多様なスタッフが各々の高い専門性を前提に、情報を共有し、互いに連携し、患者中心の医療・ケアを提供する「チーム医療」、すなわち「多職種連携」を推進している。

 多職種連携において、自分がどの立ち位置でACPに関わるのかを知ることは有益である3)(図1)。また、多職種連携において、自分が何をつなぐ連携をするのか理解することも重要である。それは、後述するピースやパズルであり、希望に関する情報である。これらをつなぐ多職種連携こそが、ACPの多職種連携である。

図1:多職種連携におけるACPに関わる立ち位置を表す図。
図1 多職種連携(地域包括ケア)においてどの立ち位置でACPに関わるか
Butler M, et al., Ann Intern Med. 2014; 161: 408-4183)を参考に筆者作成)

ACPファシリテーター

 ACPファシリテーターとは、本人の価値観や意向、人生の目標に⼀致した医療・ケアの意思決定を実現するために、本⼈、家族など、医療・ケアチームと協働し、本人中心の意思表明や意思決定のための対話を促進する熟練した医療・ケア提供者らである。

 医師、看護師、訪問看護師、メディカルソーシャルワーカー、介護⽀援専門員(ケアマネジャー)、高齢者施設の生活相談員らが対話のプロセスを適切に進めるACPファシリテーターとなりうるが、これらの職種に限らず、本人の心身の状態と療養の場によって、医療・ケアチームの中で最も適任な職種・スタッフがファシリテーターを務めることが望ましい2)

 日本老年医学会の「ACP推進に関する提言」2)では、ACPファシリテーターは、特定のトレーニングの受講などを条件に定義されているわけではなく、職種も限定されていない。市民患者利用者をよく理解している⼈、あるいは、よき理解者と思われている⼈が、ACPファシリテーターになりうるのである。

ACPの4つの段階

 ACPには大きく分けて4つの段階がある。ここでは「多職種連携の実際と課題─ACPファシリテーターの役割─」を理解するために、4つの段階を操作的に定義する。

 第1段階は意思形成の段階である。この段階は、本人の意思の全体像ではなく、その断片(ピース:piece)が言葉として発せられている段階である。例えば、テレビ番組などを見ながら、「自分もこんな最期がいい」だったり、「自分だったらこれは耐えられない」というような発言がこれにあたる。あるいは、全体像はおろか、ピースさえ言葉として発せられていない段階も含む。まだ本⼈の意思として全体像が形を成していない段階なのである。

 第2段階は意思表明の段階である。本⼈の意思の断片(想いのかけら、ピース)がパズルのように組み合わされ、価値観、大切にしていること、譲れないこと、気がかり、目標、選好などが表明され始める段階である。例えば、「機械につながれた状態は、○○の理由から自分らしくない」というように、その人の価値観などが徐々に言葉として表現される段階である(図2)。

図2:ACPの第2段階において、本人の意思、価値観を言葉として表現する意思表明の段階を表す図。
図2 人生の物語りの中のピースを集めてパズルを組み合わせる(意思表明)

 第3段階は意思決定の段階である。将来、自分はこういう医療・ケアを受けたい・受けたくないと決定する段階で、表明した価値観などに照らし合わせながら、将来の医療・ケアを選択肢の中から選ぶ段階といえる。例えば、「心肺蘇⽣は望まない」などのDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)などもこの段階に含まれる。

 最後が意思実現の段階である。関係者の意見やその場の状況認識、関係者の価値の対立などに配慮しながら、本⼈の意思を実現する段階である。ここでは、臨床倫理的アプローチが重要になる。この段階では、意見や価値の対立が⽣じやすいため、多職種連携の力量が試される時期である4)

 この4つの段階のどこをACPと呼ぶかは、成書によってまちまちで、リビングウィルのように延命治療をするしない、胃ろうをするしないといった、将来の医療・ケアの選好を述べる第3段階(意思決定期)だけをACPと呼んでいるケースもある。しかし、本稿では多職種連携にフォーカスをあてているため、ACPの4つの段階すべてをACPと呼ぶ。そのほうが、多職種連携で行うACPがよりわかるからである。

 また、信頼できる⼈を自分の代弁者として指名しておくことも、自分の意思が反映されるために重要な意思決定を実現するプロセスであることも、ここであわせて述べておきたい。

「多職種連携の実際と課題─ACPファシリテーターの役割─」を理解するための5つの切り口

1.多職種連携の中で、市民患者利用者が自由に語る権利を擁護する

 日本国憲法には、以下のような主旨が述べられている。⼈権とは、個⼈として尊重され、平等にあつかわれ、自らの意思に従って自由に⽣きることである。⼈権には、基本的⼈権と新しい⼈権があり、前者に含まれる自由権は、自由に物事を考え表現できることである。後者に含まれるプライバシーの権利は、われわれがACPを実践する際、どの程度その⼈の価値観、選好に踏み込んでよいかといった問題の重要性を教えてくれる。

 ACPの現状として、患者利用者、代弁者家族、医療ケア提供者は、必ずしも自らの意思を表明できる機会を与えられているとは言えない現状がある。われわれ医療ケア提供者は、ACPを「プライバシーに配慮しながら患者利用者や代弁者家族が自由に語ることができる権利」と捉える必要がある。そして自らも語る必要がある。

2.多職種連携の中で、市民患者利用者のACPの準備性を高める

 ACPを行ううえで、その機会が与えられた場合でさえ、市民患者利用者はACPを始める準備ができていない現状がある。「ACPなど縁起でもない」とか「自分には遠い話である」とか、仮にACPを行うことの重要性に気がついたとしても、「何を話せばいいのかわからない」という⼈が多い。市民患者利用者の、ACPに対する準備性を高めることが重要である。先行研究では、ACPサポートツールにより、ACPの準備性を高めることができる可能性が示唆されている5)。ピースを集めパズルを組み合わせ、形を成していない本⼈の意思が表明できるように⽀援すること、市民患者利用者のACPの準備性を高めることが重要である。

3.多職種連携の中で、医療ケア提供者のACPコミュニケーションスキルを育む

 近年、ACPコミュニケーションに関する知識や技術や態度を身につけるための研修会が各地で開催されている。厚⽣労働省や神戸大学が行う、意思決定⽀援教育プログラム(Education For Implementing End-of-Life Discussion:E-FIELD)は、代表的なACPファシリテーター養成のための研修会だろう。また、将来の医療選好以上に、その人の価値観や、その価値観を構成するだろう人生の物語りのピースをキャッチすることを重視したプログラムであるACPiece研修などもある。

 専門職としての医療ケア提供者にとっては、学びの機会も増えている現状であるが、今後は1⼈でも多くの医療ケア提供者がこれら研修の機会を利用し、ACPコミュニケーションスキルを身につけることが重要である4),6)

4.多職種連携の中で、医療ケア提供者が臨床倫理アプローチを学ぶ

 本稿の冒頭にも述べたが、日本老年医学会の「ACP推進に関する提言」2)には、ACPとは、将来の医療・ケアについて、本人を人として尊重した意思決定の実現を支援するプロセスであると書かれている。仮にACPのプロセスを進める中で、意思決定できたとしても、本人の意思が医療ケア提案や家族の感情と対立した場合、本⼈の意思を尊重し実現することがむずかしく感じられる場合がある。いわゆる倫理的ジレンマである。このような倫理的ジレンマにどのように対応したらよいか、医療ケア提供者側がまだまだ臨床倫理的アプローチに精通していない現状がある。この現状の打破が課題である。先に紹介したE-FIELDACPiece研修では、この臨床倫理的アプローチの初歩を学ぶことができる4),6)

 また、臨床倫理的アプローチは概論だけでは身につかず、事例を積み重ねた経験知の蓄積7),8),9)や、その疑似体験のためのロールプレイを用いたコミュニケーショントレーニング4),6)が重要である。

5. 多職種連携の中で、市民患者利用者と医療ケア提供者がICTで命と希望をつなぐ

 ACPの4つの段階が進み、すでに本⼈が意思決定できていたとしても、医療機関、自宅、その他、高齢者介護施設など、場の移行を繰り返す間に、その意思がつながらない現状がある。筆者は諸外国の例や、近隣のACP成功例を経験する中で、ICTの可能性を確信している。医療ケア提供者がACPの重要性を知り、お互いが顔の見える関係を構築したうえでICTの技術を用いれば、切れ目なく患者の意思をつなぐことでACP連携が可能になる。

まだまだACPにおけるICTの利用は進んでいない現状があるため、その普及が課題である。ICTはACP連携においても大きな可能性を秘めている。ICTを活用し、命に関する情報のみでなく、その⼈の希望に関する情報、すなわちACPで語られた情報も含めて、連携をすることが重要である(図3)。

図3:市民患者利用者と医療ケア提供者をつなぐICTネットの可能性を表す図。
図3 市民患者利用者の意思をつなぐICT

まとめ

本稿では、「多職種連携の実際と課題─ACPファシリテーターの役割─」について述べた。

 ①ACPを⼈権を擁護する活動と捉え、②形を成していない本⼈の意思表明を支援しつつACPの準備性を高め、③ACPコミュニケーションを通じて、将来の医療・ケアの選択に加え、その背景にある価値観、生活の中で大切にしていることや譲れないことをキャッチするアンテナを磨き、④本人家族関係者間の意見や価値の対立を受け止め、合意形成に導くスキルを学び、⑤ICTを活用し、その人の希望に関する情報の連携、すなわち、ACP連携を行うことが重要である。

 本稿が、多職種連携の実際と課題やACPファシリテーターの役割を知る⼀助となり、ひいては、多職種連携により、ACPが地域に広がることに少しでもお役に立てれば幸いである。

謝辞

 本稿を作成するにあたり、市民のACPの準備性を高める活動や専門職のACPiece研修を地域で精力的に実践している、快護(かいご)相談所 和咲(わさ)び 副所長・介護支援専門員の大城京子氏に多くの資料提供や助言をいただいた。心よりお礼を申し上げる。

文献

  1. 厚生労働省:人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン. 2018. (PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 日本老年医学会倫理委員会「エンドオブライフケアに関する小委員会」:ACP推進に関する提言. 2019. (PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. Butler M, Ratner E, McCreedy E, et al.: Decision aids for advance care planning: an overview of the state of the science. Ann Intern Med. 2014; 161: 408-418.
  4. 西川満則, 大城京子:ACP入門 人生会議の始め方ガイド. 日経BP,2020.
  5. Menkin ES: Go wish: A tool for end-of-life care conversations. JPaliat Med. 2007; 10: 297-303.
  6. 西川満則, 大城京子:アドバンス・ケア・プランニング(ACP)と人生会議. PIECE学習会. (外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  7. 日本老年医学会:ACP事例集. (外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  8. 西川満則, 長江弘子, 横江由里子:本人の意思を尊重する意思決定支援 事例で学ぶアドバンス・ケア・プランニング. 南山堂, 2016.
  9. 大城京子, 清水直美, 瀬口雄一郎, 長江弘子, 西川満則, 横江由里子:生活の場で行うアドバンス・ケア・プランニング 介護現場の事例で学ぶ意思決定支援. 南山堂, 2020.

筆者

写真:筆者_西川満則先生
西川 満則(にしかわ みつのり)
国立長寿医療研究センター緩和ケア診療部医師
略歴
1989年:岐阜薬科大学卒業、1995年:島根医科大学卒業、西尾市民病院呼吸器内科医師、1999年:愛知国際病院内科ホスピス科医師、2000年:名古屋大学第一内科(現呼吸器内科)医員、国立長寿医療研究センター呼吸器内科医師、2011年より現職
専門分野
エンド・オブ・ライフケア、アドバンス・ケア・プランニング

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.96(PDF:5.6MB)(新しいウィンドウが開きます)

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