健康長寿ネット

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笑いの健康効果

公開日:2018年5月 9日 11時00分
更新日:2019年2月 1日 17時20分

笑い療法の歴史

 まずは、笑いが持つ「病に対してもたらす効果」についてご紹介します。

 笑いと治療の関係を研究するきっかけとなったのは、治る見込みが500分の1ともいわれる難病を、笑いにおいて完治させたノーマン・カズンズ氏(アメリカ合衆国ニュージャージー州出身ジャーナリスト・作家)の逸話がきっかけとされています。

 彼は49歳の時に硬直性脊椎炎と診断されました。さまざまな治療の経過を経て、彼は笑いやユーモアが副腎に作用し、免疫力に関係するのではないかと考え、友人の医師とともに笑い療法の研究を始めました。すると彼の体は、数か月後には社会復帰を果たせるまでに、容体が改善したのです。また、その後心筋梗塞となった際に、同じように笑い療法を実践し、手術を受けることなく病を完治させ、退院へとこぎつけました(図1)。

図1:笑いで病を克服したことを表す図。
図1:「笑い」で病を克服した

 自分自身を被験者として行ったこの実験。ノーマン・カズンズ氏は「患者の85%までは体内の自然治癒力で病気を治すことができるのに、勝手に自力では治らないと決めこんでいる。それが1番よくない」と話しています1)

笑いの医学的効果とは1)

 なぜ、笑いが彼の病を完治させたのでしょうか。医学的に捉えるならば、呼吸器系の観点と、免疫系の観点、2つの点から関連性を見い出すことができます。

 まずは呼吸器系の観点です。笑う時には、「下腹部に力を入れて息を短く吐く」ことを繰り返しています。これは、腹式呼吸と同じ呼吸法です。1回に出入りする空気の量は、胸式呼吸でおよそ500mL、腹式呼吸で最大2000mLにもなるため、1分間の呼吸量は腹式のほうが多くなります。つまり、大声で笑うことを繰り返すと、体内にたまっている大量の二酸化炭素が体外に排出され、たくさんの酸素が体内に入りやすくなります。すると、肺胞の表面からプロスタグランジンという物質が分泌され、血管を拡張させて血圧を下げるように働きます。また、興奮したときに分泌されるホルモンであるノルアドレナリンの分泌も抑えてくれます。笑いが呼吸に作用することで、さまざまな体の不調を整えてくれるのです。

 次に、免疫系の観点から見てみます。とある研究において、寄席を見に来たお客さんにがんと闘う免疫細胞であるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の活性を調べたところ、大笑いをした後のほうがはるかにNK細胞が活性化していることがわかりました。また他の研究では、お笑いを見た後にNK細胞の活性化を見てみると全体の平均値は開演前と比較して35%~45%アップしており、中には50%近くアップしている人もいました。薬剤を使ってNK細胞をアップさせようとすると効果が出るまでに3日ほどかかるのに対して、笑いは短時間で免疫系の機能を向上させる効果が出る、ということがわかりました。

笑いの健康長寿への影響2)

図:高齢者夫婦が笑っているイラスト。笑いが健康長寿に影響することを表す。

 では、「笑い」と高齢者の身体的、精神的側面にあてはめて考えてみます。笑いは、高齢者の健康長寿にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 高齢者は一般的に、呼吸筋や横隔膜筋などが加齢によって弱くなることから、呼吸効率が低下し、肺気量減少、ガス交換効率も低下するため、健康な成人(青年期など)よりも、血液中の酸素飽和度が低くなることが考えられています。

 しかし、大笑いすることで呼吸に必要な筋肉が大きく動かされ、息をしっかり吸ってしっかり吐くことができるようになるため、一時的とはいえ、呼吸能力が高まったことが考えられます。

 また、高齢者は加齢に伴い動脈は硬化し、血管の収縮力が低下しているため、血圧が変動しやすいとされています。しかし、笑うことによって血管が拡張され、血圧を下げることができます。そのため、高血圧や動脈硬化のある高齢者では、声を出して笑うという行為を積極的に行うことが望ましいと考えられます。

 さらに高齢者は一般的に、定年退職、配偶者の死、身体面の老化といった社会的、心理的、身体的な喪失体験を多く経験する年代であり、その反動によって抑うつ状態となる人も少なくありません。抑うつ状態になると心身ともに疲弊し、否定的な思考となり笑うことも少なくなります。さまざまな喪失体験によって笑う機会を失ってしまう高齢者も多くいます。

 しかし、笑うことで気分がすっきりし、肯定的な意見、ポジティブな意見を述べる高齢者が多くいたとする研究結果も出ており、気分や感情をいい方向に転換させるためにも、笑いは一役買っているといえるでしょう。

 さらに、大阪府立健康科学センターが行った笑いの頻度と1年後の認知機能との関連についての横断・縦断研究の結果、「ほぼ毎日笑う人」と「ほとんど笑わない人」では、後者のほうが1年後の認知機能の低下が大きいという調査結果が出ています(図2)3)

図2:大阪府立健康科学センターが行った笑いの頻度と1年後の認知機能との関連についての横断・縦断研究の結果、「ほぼ毎日笑う人」と「ほとんど笑わない人」では、後者のほうが1年後の認知機能の低下が前者の3.6倍という調査結果を示すイラスト。
図2:「笑い」による認知機能の変化3)より作図

 これは、脳の機能が関係しているのではないかといわれていますが、よく笑う人が全く認知症にならないというわけではなく、追加の研究が検討されています。

 これらのことから、笑うという行為は、身体的にも心理的にも、高齢者の健康長寿に対してよい影響を与えているということがわかります。

参考文献

  1. 笑いの医学的考察 昇 幹夫(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 高齢者におけるラフターヨガによる笑いの身体的・心理的効果に関する研究 滋賀県立大学 学術情報機関リポジトリ(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 笑いの頻度と認知機能との関連についての横断・縦断研究 公益財団法人大阪府保健医療財団 大阪がん循環器予防センター(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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