高齢者に特有なこころの病気
公開日:2019年7月30日 09時45分
更新日:2024年5月15日 11時24分
高齢になると、身体にさまざまな変化が起こります。例えば、白髪や歯の衰えなど身体の見た目の変化、運動機能や身体機能の低下、五感の低下など、身体に関するものです。それと同時に、こころにも大きな変化が現れます。
高齢者の心理的特徴
高齢になると現れるこころの変化には、若い時には簡単に出来たことが思うように出来なくなることで感じる不安感や、配偶者との死別などにより抱く孤独感などがあります。
老年期になると、仕事など自分の欲求を注いでいたものや、自分自身の価値を支えてきたもの、自分にとって大切なものなどを喪失する出来事が多くなることがあります。例えば、定年を迎えることで、今まで自分を支えていた社会的地位を失い、自身の価値観も揺らぐ一方で、周囲の仲間が徐々にいなくなるなど、さらに孤独感を増してしまうというケースもあります。
老年期における環境の変化や孤独感を強める出来事がストレスとなり、こころの病を引き起こす原因となってしまうことがあります。これには、以下のような高齢者特有のこころの状態や、精神的な変化が関係していると言われています。
- 感情のコントロールが困難になる
- 不満や怒り、不安感が大きくなる
- 孤立、孤独感の増加
- 無気力、無関心
- 頑固になる
高齢者のこころの変化はさまざまありますが、個人差が大きく、自分自身に環境や身体の変化が起こったとしても、それまでと同様に自分と向き合える人がいます。
しかし、逆の結果になる人もいます。例えば、孤独感を解消するために子供と同居したのに、子供との生活に違和感を抱くことになる、というケースです。高齢者のこころの変化に早期に気づくためにも、社会的役割や家庭環境の変化が起こったときには、特に注意が必要だといえるでしょう。
高齢者のこころと身体の疾患
人は誰も大なり小なりストレスを抱えていますが、そのストレスを改善しないまま慢性化することで、こころの疾患だけでなく身体的な疾患をも引き起こすことが分かっています。このように、ストレスに関連していると考えられるこころや身体におこる疾患のことを「心身症」といいます。
心身症というのは病態名であり、ストレスが蓄積されることにより身体に疾患が起こった状態を言います。心身症は、循環器系、呼吸器系、消化器系、神経系、泌尿器系など、さまざまな領域に現れます。このように、身体の疾患ではあるのですが、その発症や経緯には心理的、社会的なストレスが大きく関わっているため、身体の治療だけを行っても病状が回復しない場合が多くあります。
ライフサイクルとストレス
心身症を引き起こす心理・社会的ストレスを受けやすい時期は、さまざまなライフサイクルに見られます(図1)1)。
まずは就学の時期、母親との分離不安に始まり、思春期、青年期でストレスのピークを迎えます。次のピークは中壮年期であり、心身症とされる自律神経失調症の発症の一つのピークになっていると言われています。ストレスの退行する時期に入ると、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、また女性特有の更年期による変化によってストレスを受けることになります。さらに老年期になると、老化や経済的不安や配偶者との死別などといった喪失体験により、重大なこころの病を発症しやすくなると言われています。
高齢者のうつ病の特徴2)3)
うつ病とは、精神的なエネルギーが欠乏した状態です。それによって気分が落ち込むなど憂うつな気分になったり、食欲や睡眠欲などさまざまない意欲が低下したりするほか、身体的な苦痛を伴うこともある病気です。
うつ病は高齢者にも起こりうる病気ですが、高齢者のうつ病のきっかけとなりやすいのが重大なライフイベントと慢性的なストレスと言われています。ライフイベントには、配偶者などとの死別、大切なもの(仕事・財産など)を失う、家庭内でのトラブルなどがあります。慢性的なストレスとしては、身体的な機能や気力の低下、社会的役割の低下、経済的な問題などがあります。
また、鎮痛薬や抗がん剤、副腎皮質ステロイド薬や血圧降下薬などが、うつ病を誘発する要因となることもあると言われています。
高齢者のうつ病の場合、通常のうつ病とは違い、症状の現れ方に特徴があります。高齢者の場合、一般的なうつ病の症状を示す人は3分の1から4分の1のみと言われています。また、症状の一部が強く現れたり、反対に一部が弱くなるといった特徴があるなど、通常の診断基準では見落とされる可能性もあり注意が必要です。
高齢者のうつ病は、精神的な症状(憂うつ、気が沈むなど)よりも身体的な症状(胃の不快感、頭痛など)が目立つのが特徴です。身体に悪いところがあるわけでないのに体調がすぐれず、身体の痛みや不快感を訴えることがあります。周囲にとっては老化現象のひとつに思われるかもしれませんが、高齢のせいにせず早めに発症に気づいてあげることが大切です。