健康長寿に影響するストレス
公開日:2019年7月30日 09時50分
更新日:2019年7月30日 09時50分
ストレスとは
ストレスとは、物理学において「物体にかけられる外側からの圧力により、物体が歪んだ状態」のことを意味します。心理学や医学の分野においてストレスとは「こころや体が外部から受ける刺激によって生じるさまざまな反応」のことを意味し、これをストレス反応と呼んでいます。
ストレスの原因「ストレッサー」とは1)
私たちにのこころや体が外部から受ける刺激によって感じるストレスの原因となる「ストレッサー」は以下の3つに分類されます。
- 物理的ストレッサー(暑さ、寒さなど)
- 化学的ストレッサー(薬物、公害物質、酸素欠乏・過剰など)
- 心理・社会的ストレッサー(仕事や人間関係における問題、家庭問題など)
いずれのストレッサーも、日常生活の中で感じることがあるのではないでしょうか。私たちが生きていく上では、大小の差があるとはいえ、何らかのストレッサーにさらされていることになります。
ストレスからくる「病」とは1)
ストレスが原因となって起こる不調には、こころの不調と体の不調があります。
こころの不調から体の不調へ
私たちは外部からの「ストレスへの対処能力を超えるような大きなストレス」を受けたり、そのストレスが長期間に渡って続いたりすることで、こころの健康を保つことが難しくなります。
こころの健康を保つことが難しくなると、活気の低下に始まり、やがてイライラや不安感を感じるようになります。この状態が解消されずにいると、さらには気分の落ち込み、「うつ」の状態を引き起こしてしまいます。
うつ状態の場合、こころだけではなく体にも注意すべき症状が現れることがあります。次のような症状が2週間以上続く場合は、精神科や心療内科に相談することをお勧めします。
こころの症状
- 気分の落ち込み、抑うつ気分
- 不安・焦り、イライラ感
- 趣味などが楽しめない
- 意欲の低下、おっくう感
- 思考力・集中力・決断能力の低下
- 消えてなくなりたいと思う
- 自分を責める
からだの症状
- 疲労感・倦怠感
- 食欲の減退、増加
- 体重の減少、増加
- 睡眠障害(寝つきが悪い、夜中に目が覚める、など)
ストレス関連の疾患(心身症)
ストレッサーによる悪影響(ストレス反応)が改善されないまま慢性化してしまうと、うつ病などの「こころの疾患」だけではなく、からだの疾患(心身症)を引き起こしてしまうことがあります。これを「ストレス関連疾患」といいますが、代表的なストレス関連疾患は表の通りです。
部位 | 主な症状 |
---|---|
呼吸器系 | 気管支喘息、過換気症候群 |
循環器系 | 本態性高血圧症、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞) |
消化器系 | 胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、心因性嘔吐 |
内分泌・代謝系 | 単純性肥満症、糖尿病 |
神経・筋肉系 | 筋収縮性頭痛、痙性斜頸(けいせいしゃけい)、書痙(しょけい)※1 |
皮膚科領域 | 慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症 |
整形外科領域 | 慢性関節リウマチ、腰痛症 |
泌尿・生殖器系 | 夜尿症、心因性インポテンス |
眼科領域 | 眼精疲労、本態性眼瞼痙攣 |
耳鼻咽喉科領域 | メニエール病 |
歯科・口腔外科領域 | 顎関節症 |
- ※1 書痙(しょけい):
- 書痙とは、字を書き続ける人に起こりやすい神経症の一つです。字を書く時に手にけいれんや痛みを感じるようになります。
しかしながら、ストレス関連の疾患とはいえ、これらはストレス以外の原因で発症する場合もあります。従って、疾患の発症にストレスが関係しているのかどうかを判断したうえで、こころと体のストレス状態、それぞれにおいて治療や改善を行う必要があります。
ストレスの改善のために1)2)
ストレスと聞くとマイナスのイメージを抱きがちですが、多少の差こそあれ誰しもストレスを抱えているものです。高齢期を迎える方にとって多いストレスの原因となる例を挙げると、社会的役割の変化として退職のストレス、人間関係の変化として家族関係の変化や死別などのストレスがあります。では、このようなストレスと上手く付き合っていくにはどうしたらよいのでしょうか。
ストレスのサインに気づく
こころの健康を保つためには、体の不調と同じように早めの対処が大切です。例えば、イライラする、気持ちが落ち込む、疲れやすいなどは小さなサインではありますが、対応しないままでいるとストレスが過度な状態となり、こころの病気など「治療の必要な病気」へと悪化してしまうこともあるからです。このような状況を避けるためには、早めに自分自身のストレスのサインに気づくことが重要なのです。
こころと体に現れる不調のサインについては前述の通りですが、そのほかにも日常生活において以下のような症状があらわれることがあります。
- 周囲との交流を避けたい
- 飲酒、喫煙量が増える
- 髪型や身だしなみに関心がなくなる
また、ストレスのサインとして、眠れない、食欲の低下などはイメージがしやすいですが、いつもどおり寝ているのに眠い、いつもより食欲が増えるなど、普段とは違う状態もストレス反応となる場合があるため注意が必要です。
ストレスコーピングとは
ストレスへの気づきの次の段階として大切なのが、ストレスコーピング(ストレス対処法)です。これは、ストレスに対して何らかの対処法を試み、ストレスを上手くコントロールする行動のことをいいます。
ストレスコーピングには、ストレスそのものに対して働きかけることでストレスをなくす、また、自分自身または周囲の人の協力により解決する問題焦点型コーピングと、周囲の人たちに話を聞いてもらうことなどによりストレスを軽減する回避型コーピングに分類されます。
ストレスと上手く付き合っていくためには、いろいろな種類のコーピングを使い分けたり、自分に適したコーピングを探しておくことが大切なのです。
参考文献
- 無藤隆ら:心理学. 新版, 株式会社有斐閣, 東京, 2018年, P536