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第3回 ツグミ─昔はかすみ網の犠牲に!

公開日:2020年10月30日 09時00分
更新日:2022年12月 2日 10時26分

上田 恵介
公益財団法人日本野鳥の会会長、立教大学名誉教授


 秋が深くなり、各地で霜の便りが聞かれる頃、シベリアで繁殖を終えたツグミたちは、日本海を飛び越えて日本に越冬にやってくる。ツグミたちの多くは能登半島を経由して、本州各地に渡来する。この季節、夜空を見上げていると、鳥の姿は見えないが、キョキョッとかクィクィッという彼らの声が上から降ってくることがある。ああ、ツグミが渡ってくる季節になったんだと、感慨にふける時でもある。

 渡ってきたツグミたちは、渡来当初は山で生活していて、あまり人里に降りてこないが、寒さが厳しくなってくると、平地の農耕地や公園に降りてくる。よく人の目にとまるのはこの頃である。ムクドリやヒヨドリと同じくらい、スズメの倍くらいの茶色い鳥がいればそれがツグミである。キョキョッという声も印象的で覚えやすい。私たちにとって、ツグミは全国各地でごく普通に見ることのできる身近な鳥である。冬には、ツグミたちはセンダンやピラカンサなどの木の実に、集団になって集まっていることもあるが、地上にいる時は単独で虫を探している。

 日本ではかつて、ツグミなどの小鳥をかすみ網で捕らえる風習が広く行われていた。大陸から日本海を越えてやってくるツグミが最初に降りるのは、能登半島や越前半島の山である。こうした地方では、山の中腹に大規模な鳥屋場(とばや)が設けられていた。鳥屋場には何十枚ものかすみ網が張られ、カゴに入れたオトリの鳥を鳴かせて、上空を通る鳥たちを網場に招き寄せて一網打尽にしていたのである。かすみ網猟は江戸時代から長く続く伝統猟法で、加賀藩など北陸、中部地方の多くの藩では武士のたしなみとして奨励されていた。それは明治維新になって、武士階級がなくなってからも長く続いていた。

 戦後、「小鳥を捕らえて食べるのは野蛮」というGHQの意向で法律が改正されてかすみ網の使用は禁止されたが、販売は野放しというザル法であったため、これまでの悪習は簡単にはなくならず、とくに中部6県ではツグミ類の密猟は近年まで行われていた。しかし日本野鳥の会の初代会長の中西悟堂らによるねばり強い運動で、かすみ網の販売も禁止され、さらに生活が豊かになることによって、人々の生活習慣や食文化も徐々に変化したことから、食べるために小鳥を捕らえるという悪習は、現在ではほぼなくなっている。

 春になって渡りの時期が近づくと、ツグミたちはゴルフ場やグラウンドなど、開けた芝地に集まってくる。見ていると、両足をそろえてピョンピョンとホッピングで数歩進み、立ち止まってはちょっと首を傾けて、地面の音を聞いているような仕草をする。それからまた数歩進んで立ち止まるを繰り返す。春になって暖かくなると、啓蟄(けいちつ)の言葉の通り、ミミズたちも地面の浅いところに移動してくるのだと思われる。ツグミたちは土の下でミミズの立てる音を聞いて、ミミズをひっぱり出すのだろう。

 立ち止まって胸を張っているツグミはとても姿勢のいい、キリッとした印象を受ける鳥である。

写真:胸を張って姿勢よく立つツグミの様子を表す写真。
ツグミ

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.95(PDF:9.2MB)(新しいウィンドウが開きます)

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