摂食・嚥下障害の治療
公開日:2016年7月25日 09時20分
更新日:2019年6月21日 09時45分
嚥下(えんげ)障害の治療とは
嚥下障害の治療方法は、大きく3つに分けられます。経管栄養法、訓練、手術です。嚥下障害を起こす主な原因には、脳血管障害や脳梗塞を含む"脳卒中"があります。脳卒中の初期の段階では、研究により差がありますが、およそ30%~50%に嚥下障害による誤嚥がみられ、その後の治療やリハビリテーションにより大部分は回復しますが、慢性期になっても5%くらいの患者さんには、嚥下障害による誤嚥が残るといわれています。
また、誤嚥を起こさない軽度の嚥下障害は、その他の疾患によるものや、加齢によるものもありますので、実際に嚥下障害を抱えている患者さんは、とても数が多いと考えられます。
嚥下障害を起こすと、誤嚥による肺炎というリスクを抱えるだけではなく、食事への意欲を無くして食事量が減るために栄養が不足する、あるいは水分が上手く取れずに脱水状態になる可能性もあります。
そのため、嚥下障害を起こしていることが分かったら、適切な治療や訓練を行う必要があります。
嚥下障害の治療方法その1 間接的訓練
嚥下障害の治療として、多く用いられるのが間接的な訓練です。これは、摂食や嚥下に関係する器官に対して行う、基礎的な訓練です。食べ物は使用しません。具体的な内容は、次のようなものがあります。
- 関節などの可動域を拡大させる
- 食事に使う器官に対する、筋力の訓練
- 感覚や反射などの感受性を、変化させる訓練
- 呼吸方法や構音(言葉を発する)訓練
- 嚥下パターンの訓練
などが含まれます。実際の食べ物を使用しないため、安全性が高いことから、飲食を制限されている患者でも行うことができます。
また、介護施設などでは、食前の準備体操として行ったり、家庭でも行うことができるという特徴があります(表1)。
訓練の内容 | 訓練の目的 |
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嚥下体操 |
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頸部可動域訓練 |
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開口訓練 |
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口唇・舌・頬の動きの訓練 |
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口唇の閉鎖訓練 |
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唾液腺のアイスマッサージ |
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氷なめ訓練 |
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歯肉マッサージ |
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頭部挙上訓練(シャキア・エクササイズ) |
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嚥下障害の治療方法その2 直接的訓練
直接的訓練とは、実際に食べ物を食べながら行う訓練で、段階的摂食訓練ともいいます。患者さん本人にとって、咀嚼(そしゃく)や嚥下がしやすい食事の形態(食べ物の大きさや、やわらかさ)から繰り返し評価を行い、摂食嚥下が難しい食べ物へと、段階を踏んで徐々に進めていく訓練です。ポイントは、30分程度の食事時間と、7割以上の摂取量を目安に、安全で適切な難易度を設定していくことです。実際に食べ物を嚥下させる訓練であるため、誤嚥の有無や可能性を十分に評価してから始めます。
この訓練に対する評価は、嚥下造影やビデオ喉頭内視鏡などで行い、安全な食物の形態や、食事時の姿勢を検討していきます。
嚥下障害の治療方法その3 手術による治療
摂食・嚥下障害に対し、手術を行うこともあります。これには、大きく分けて2つの考え方があります。
機能補助的手術法
1つ目は、機能障害に陥っている器官の機能を補助するために行う手術として、機能補助的手術法と呼ばれる治療法があります。機能が低下している部位に応じて、いくつかの術式があります。例えば、食道の入口が開かない場合は、"輪状咽頭筋切断術(りんじょういんとうきんせつだんじゅつ)という、食道の入り口を弛緩(しかん)させる手術が検討されます。また、嚥下運動が起こりにくい場合には、喉頭挙上術(こうとうきょじょうじゅつ)と呼ばれる、咽頭の挙上を強化させる手術)が検討されます。
これらの手術は、嚥下障害が高度であり、尚且つ様々な訓練を十分に行っても効果が上がらない場合に行われます。しかし、手術をしたからといって、すぐに自力での摂食が可能になるわけではありません。手術を行った後でも、リハビリテーションを行う必要があります。
誤嚥防止術
もう1つの方法は、誤嚥防止術と呼ばれる手術です。これは、気管と食道を完全に分離してしまうという方法です。この術式は、あくまでも"誤嚥を完全に防止する"という目的で行われます。しかし、発声機能が全く失われる、あるいは経口摂取が100%保証されるわけではない、という問題点もあります。この手術を行うかどうかは、様々な状況を十分に検討する必要があります。