摂食・嚥下障害のケア
公開日:2016年7月25日 09時10分
更新日:2019年2月 1日 20時13分
摂食嚥下障害のケアはなぜ必要か
口腔内には、むし歯や歯周病に関わる細菌(病原性微生物)がたくさん存在しています。これらの細菌が、唾液とともに気管や肺に流れ込んでしまうと、誤嚥性肺炎を起こす原因となります。肺炎は、日本人の死因の第4位ですが、そのうちの9割以上が65歳以上の高齢者です。その理由として
- 加齢とともに、誤嚥をしやすくなる
- 誤嚥したときに、それを咳とともに排出する力が弱くなる
- 免疫力が低下し、肺炎を起こしやすくなる
などが挙げられます。また、摂食嚥下障害がある方への口腔ケアは、単に口腔内を清潔にするだけではなく、口腔内を刺激することで、感覚を取り戻す可能性もあります。
もう1つ、摂食嚥下障害がある方へのケアとして重要なのが、食事の介助です。摂食嚥下障害があると、上手に食物をかみ砕くことや、"むせこみ"によって必要量の食事をとることが出来なくなります。ケアを行う側は、どうすれば食物を嚥下しやすい大きさややわらかさにできるのか、"むせこみ"を起こさずに嚥下できるのか、しっかりと観察しながら、介助していく必要があります。
重要なケア1.口腔ケア
口腔ケアは口の中の清潔を保つためのケアであり、摂食嚥下障害へのケアに必要不可欠なものです。歯ブラシなどを用いて、口腔内を清潔にすることで食物残渣(しょくもつざんさ:食べ物の残りカス)や、口腔内の細菌を除去し、口腔内の衛生状態を改善させることができます。また、口腔内を刺激することで唾液の分泌活性化、誤嚥による肺炎の予防など、期待される効果はたくさんあります。
口腔ケアは基本的には歯ブラシを用いますが、図に示す通り歯間ブラシやデンタルフロスなど、補助的な用具も併せて使用することで、効果はより大きくなります。また、唾液の量が少ないため口腔内が乾燥している場合には、少量の水や保湿剤を用いて、口腔内の環境を整えるケアを行います。
重要なケア2.摂食時の介助
摂食嚥下障害の方の食事の介助を行う際にも、最初に口腔ケアを行います。食事前の口腔ケアは、
- 口腔内を清潔にする
- 舌のストレッチを併せて行って唾液の分泌を促し、摂食嚥下をしやすい口腔内の環境を作り出す
- 併せて体操や発声を行うことで、口腔内を刺激する
などの効果が期待できます。
また、食事前に姿勢のポジショニングをとることも必要です。座位での食事は自分で頭頚部を支えられる人が対象となります。座位を取るときは、足底をしっかりと床につけ、上体や頭頚部が後屈しないように深く座ってもらいます。左右の骨盤や、肩に傾きが無いように、タオルやクッションを使って適宜体幹の傾きを補正し、食卓テーブルは肘の高さになるように調整します。
座位での食事が困難な場合は、リクライニングの椅子を用いて、頭頚部を支持します。このとき、ヘッドアップの角度を、一部介助なら45度以上、全介助なら30度以上で調整します。身体がずり落ちてしまわないよう、タオルやクッションなどで体位を調整します。
食事介助をする際には、スプーンを使用します。相手の反応を見ながら、きちんと嚥下が出来ているか、"むせこみ"が起こっていないか、確認しながら介助します。
嚥下開始食に何を選択するか
嚥下開始食として適している食材は、嚥下障害が起きている食事の時期によって変わってきます。
準備期、または送り込み期
咀嚼や食塊形成、咽頭への送り込みが難しいため、舌の運動に頼らない食物を選択します。例えば、咽頭へ流し込める液体を選択したり、みそ汁にとろみを付けると良いでしょう。または、コーンスープ、シャーベットなど、ペースト状で低粘度の食形態が望ましいでしょう。
咽頭期
誤嚥を予防する食物を選択します。例えば、ヨーグルト、ゼリーといった高粘度のペースト状の食形態が望ましいでしょう。
とろみのある液体はさらさらの液体よりも咽頭でまとまり、咽頭への流入速度が遅くなることから、誤嚥を防げることが分かっています。誤嚥のリスクが高い場合には、あらかじめお茶、味噌汁にとろみを付けておきましょう。