健康長寿ネット

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免疫系の老化

公開日:2016年7月25日 06時00分
更新日:2022年4月19日 13時29分

免疫系とは

 「免疫」とは、細菌やウイルスなどの微生物、あるいは「異物」とよばれる自分の体には元々ないもの(非自己)から、自分たちの体(自己)を守るしくみです。「免疫機能」のことを「生体防御機能」ともいいます。

 免疫系には自然免疫と獲得免疫があります。

 自然免疫は、微生物が共通して持っている物質を認識して、好中球やマクロファージなどの「白血球」が機能して、微生物を攻撃する働きにより成立っています。からだに侵入してきたウイルスや細菌をいち早く見つけ出し、これらを取り除くことにより、免疫機能の最前線で私たちのからだを守っています。

 獲得免疫とは、病気のもととなる微生物などの抗原を体に取り込むことで形作られていく免疫のことをいいます。自然免疫とは異なり、実際に侵入してきた微生物にあわせて抗体などの「武器」を作ることにより、特定の微生物にねらいを定めて効果的に攻撃することができます。ただ、侵入してきた抗原に対してそれぞれ抗体などを作らなければならないため、自然免疫と比べて反応するのに時間がかかります。また、過去に体の中で起こった免疫反応の特徴を、特定の細胞が記憶することによって新たな免疫機能を獲得することができるので、次に同じ抗原が体の中に侵入したとき、迅速かつ強力に防御反応をするようになります。分かりやすい例をあげるなら、予防接種(ワクチン)はこの免疫機能を上手に応用したもので、毒性の低い抗原をあらかじめ体内に取り込ませて免疫系に記憶させておくことで、実際に微生物が入ってきても病気を引き起こす前に取り除くことができます。また、花粉症などでも知られるアレルギー反応も、免疫反応が原因となって現れる症状の一つです。

 しかし、免疫機能も、運動能力(体力)、視力、聴力といった能力などと同様に、年齢とともに衰えていきます。この機能が低下すると、若い頃は簡単に治ってしまう病気でもなかなか回復しない、あるいは抗生物質を投与しても効き目が悪い、ということが起こります。

加齢による免疫機能の変化

高齢者夫婦が体調を崩している様子を表すイラスト。加齢により免疫力が低下し、免疫機能が老化すると、感染症にかかりやすくなり、重症化もしやすくなります。

 免疫機能は加齢とともに低下しますが、若い頃と変わらない免疫機能を保つためには、免疫のしくみを理解することが必要です。

 これまで行われた研究により、加齢によって低下する機能は、自然免疫系よりも獲得免疫系の方が著しいことがわかってきました。一説によると、獲得免疫の能力は、20代頃がピークであり、40代ではその半分に低下するとされています1)

 こうした免疫力の低下には加齢以外にも、ストレスや環境が影響を及ぼすといわれています。厚生労働省の調査によると、高齢者のストレスの第一位は「自分の健康状態に対する不安」となっており、「病は気から」という考え方のもと、ストレスを貯めないことが健康長寿の秘訣と言えるのかもしれません。

免疫機能の老化の原因

 免疫機能の老化にはどのような原因が考えられるのでしょうか。

 免疫系には顆粒球、マクロファージ、樹状細胞、リンパ球(T細胞、B細胞がある)など、たくさんの細胞が関わっています。この中でもB細胞は、骨髄の造血幹細胞から、T細胞は胸腺で作られ、血液中に放出され、体内での役割を果たしていきます。獲得免疫のうち主要な免疫細胞のT細胞は胸腺という組織から供給されます。加齢とともにいろいろな臓器は萎縮していきますが、胸腺は20歳すぎると急激に萎縮します。そのため、新しいT細胞の供給が減っていきます。そうしますと、ある程度年齢が進みますと、すでに持っている免疫記憶を頼って獲得免疫の機能を動かしているような状態になります2)

 老化による免疫系の変化で多くみられるのがこのT細胞機能低下で、老年期における免疫力の低下に大きく関わっているのです。

 免疫機能の老化を予防し、活性化させる方法として、

  • 摂取カロリーを通常の70~80%に制限する
  • 適度に運動する
  • 抗酸化物質の増加や内分泌機能の調整のために、ビタミンEやCを効率よく摂取する

などがあります。

 一方で、ワクチン接種に関しては60歳前後では単体でも効果があるものの、それより上の年代においては、ワクチンと他の療法を併用する必要があると考えられています。

免疫機能の老化の影響

 では、免疫機能が老化すると、どのようなことが起こるのでしょうか。もっともよくみられる事象は、感染症にかかりやすくなったり、それ以外の疾患でも発症しやすくなったりすることです。免疫機能の老化について詳しく見ていくと、加齢に伴う2つの現象が見られます2,3)

 ひとつは、感染源となる病原性の微生物を「非自己」と判断する能力が衰えてしまうことです。病原微生物への攻撃力が弱くなるため、感染症にかかりやすくなってしまいます。

 もうひとつは、炎症反応を制御する機能が低下することです。高齢者の体は、低レベルではありますが慢性的な炎症が持続した状態です。この状態は、自己免疫疾患である関節リウマチやアレルギー、がんの発症、ワクチン効率の低下などにも密接に関係していると考えられています。

 また、この慢性的な炎症が持続した状態は、慢性疾患を引き起こすとともに、中枢神経系や自律神経系、免疫系、代謝系などの生理機能を低下させ、代償機構が働きにくい脆弱性が高まった内的環境になります。それにより筋量減少のサルコペニアになったり、栄養状態が低下したりする低栄養状態などによる生理機能障害を招き、動作が緩慢になったり、筋力が低下したり、体重が減少したり、活動性が低下したり、疲れやすくなったりというフレイル(加齢に伴う虚弱)として現れるようになります(図1)4)

図1:活動量の低下、食事量の低下、低栄養から悪循環に陥るフレイルサイクルを示した図。
図1:フレイルサイクル

免疫力をアップするには?(免疫機能の維持・向上)

 免疫力をアップするにはどうした良いでしょうか。そもそも「免疫力」という単語は医学用語にはありませんが、免疫力という単語の意味するところは「免疫機能の病原体に対する抵抗性」を指すと思われます。さまざまな病気にかからないようにするためには、免疫機能を正しく機能させ、病原体に対する抵抗力を維持することが必要となります。免疫機能を正しく機能させるため、日常生活の中に次のような事柄を取り入れていきましょう。

1.栄養バランスのよい食事

 昔から「一汁三菜」と表現される日本食は栄養バランスの整いやすい食事です。ただし塩分過剰になりがちなので汁物は1日1杯までにしましょう。

 また、主食・主菜・副菜には多種多様な食品を取り入れることで、多くの栄養素を摂取することができます(図2)。

図2:栄養バランスの良い食事の例。主食・主菜・副菜2品と乳製品と果物で構成される。
図2:栄養バランスのよい食事の例5)

2.適度な運動等

 ウォーキングや軽いジョギングなどの適度な運動は体の中のさまざまな機能を高め、感染症や発がんの予防につながると言われています。一方で、激しい運動やトレーニングは、一時的に免疫機能に関わるNK細胞やT細胞の機能が低下することが分かっています6)

 体力・筋力の維持のためにも、無理のない程度の運動を続けていくように心がけましょう。ただ、激しい運動は、それ自体がストレスになって、逆に免疫機能を低下させることがあるので注意が必要です。

3.ストレスをかけない生活7)

 免疫機能は、神経系の機能と作用することで私たちの体を維持しています。ストレスと密接な関わりのあるのが自律神経で、交感神経と副交感神経という2つの神経から成り立っています。

 過剰なストレスを感じた状態にあるときは、交感神経が優位に働いています。この状態が続くと、血管は収縮し、全身への栄養や酸素の運搬が遅くなります。結果として、免疫機能が正しく機能しなくなってしまいます。

 これを改善する方法としては、副交感神経を優位に働かせること、すなわち身体と心をリラックスした状態に保つことが効果的です。まずは、「楽しいことをする」「笑う」など、心が解放されるようなことを始めてみましょう。

4.十分な休養(睡眠)8,9)

 免疫機能は十分な休養(睡眠)とも深く関わっています。たとえば風邪をひいたときは、だるさとともに眠気も強くなりますが、これは体の中で、風邪の原因となるウイルスや細菌と免疫機能が戦っているために起こる変化です。免疫機能は、感染の原因となる病原性微生物と戦うときに、サイトカインというたんぱく質を放出します。サイトカインは免疫機能として働くと同時に、脳へ働きかけて眠気を引き起こすことが分かっています。

 前述の通り、高齢者の体は、低レベルですが慢性的な炎症が起こっている状態です。十分な休養(睡眠)で体と心を休ませることは、免疫細胞の働きを強めることにつながります。また、休息(睡眠)は副交感神経の働きを優位にすることにも役立ちますので、疲れたなと思ったら十分に休養(睡眠)を取り、免疫機能を維持させていきましょう。

文献

  1. 免疫老化のメカニズムを解明しました 京都大学(外部サイト)(新しいウインドウが開きます
  2. 共同発表:免疫システムの老化を引き起こす仕組みを発見 科学技術振興機構(JST)・愛媛大学 平成26年4月2日プレスリリース(2020年11月20日閲覧)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 内藤篤彦:免疫系の老化と慢性炎症.日本血栓止血学会誌 2015年;第26巻:297-301(2020年10月20日閲覧)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 野藤悠, 清野諭, 横山友里:フレイルとは:発症メカニズムと予防法について 月刊地域医学 2018;Vol.32.No.5:406(48)-414(56)
  5. 健康長寿教室テキスト第2版 国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター(2020年11月20日閲覧)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  6. 鈴木克彦:運動と免疫.日本補完代替医療学会誌 2004年;第1巻:31-40(2020年10月21日閲覧)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  7. 松田治男:免疫とストレス「楽しいことをする意味」 広島大学マスターズ 学問の散歩道Ⅳ:25-4(2020年11月20日閲覧)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  8. 睡眠と免疫の不思議な関係:化学と生物, 2004;Vol. 42.No. 5:322-323(2020年10月29日閲覧)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  9. 堀口 淳:睡眠覚醒障害の概念と病態の理解. 精神経誌(2008)110巻2号:125-133(2020年10月29日閲覧)(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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