健康長寿ネット

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デジタルと健康:誰もが健康になれるデジタル社会を目指して

公開日:2024年7月19日 09時00分
更新日:2024年8月21日 10時34分

中込 敦士(なかごみ あつし)

千葉大学予防医学センター 社会予防医学研究部門准教授

社会のデジタル化と最近の動向

 社会のデジタル化に伴い、私たちの日常生活は大きく変化している。インターネットの普及により情報へのアクセスが格段に向上し、スマートフォンやタブレットなどのデバイスは私たちの生活に欠かせない存在となった。日常生活の多くの部分がスマートフォンなどで可能となり、遠隔地にいても仕事や学習、コミュニケーションを行えるようになった。

 国土交通省の「国民意識調査」によると、デジタル化により実現され得る2050年の新たな社会像について、全世代の8割以上が「住む場所や時間の使い方を選択できる社会」を望んでおり、デジタル化による時間的・空間的制約の軽減やそれに伴う社会や生活の変化が期待されていることがうかがえる(2023年版「国土交通白書」)。例えば、時間的な制約から解放されることで自由に使える時間が増加し、リアル空間・仮想空間で各人が望む活動に時間を費やすことが可能となるかもしれない。仮にデジタル化により自由な時間ができた場合、その時間の使い方として最も多かった項目は「社会参加・会話・行楽・趣味・学習」であった(2023年版「国土交通白書」)。これらはリアル空間のみならず、メタバースをはじめとする仮想空間でも可能である。例えばインターネット上の仮想空間でアバターを操作して他者と交流したり、商品購入等が可能となっており、メタバースを活用したサービスの市場規模は拡大傾向にある。

 一方で、全世代の8割以上の人が「デジタル仮想空間では代替できないことがある」、現地の状況を「直接五感で感じたい」とも回答しており、特に交流目的の場合は、リアルで交流したいと望む人が一定程度存在することもわかっている。仮想空間では代替できないリアルに対する価値が再認識されており、デジタル化による「仮想空間の活用拡大」とともに「リアル空間の質的向上」が期待されている。

デジタルと健康

 社会のデジタル化が進むにつれて、デジタル化による恩恵を受けられる人とそうでない人が生じることが危惧される。そのような格差を「デジタルデバイド」と呼び、特に高齢者での格差が社会課題となっている。2021年(令和3年)にデジタル庁が発足し、デジタルデバイド解消に向け全国の自治体でも高齢者を対象にしたスマホ講座などが行われるようになってきているが、2022年(令和4年)時点でも70歳台の高齢者の約40%、80歳台以上では約70%の人がインターネットを利用しておらず(図1)1)、誰一人取り残さないデジタル社会に向けて解決すべき課題が多く残されている。

図1、2022年、年代別インターネット利用率を表す図。
図1 2022年 年代別インターネット利用率
(出典:総務省.令和4年通信利用動向調査の結果1)より著者作成)

1.デジタルデバイドの3つのレベルと健康

 デジタルデバイドには3つのレベルがある。1つ目のレベルはインターネットへのアクセスであり、日本では光ファイバの整備率(世帯カバー率)は、2020年(令和2年)3月末で99.1%に及び、インターネットのインフラは一部の地域を除いては達成されている。2つ目のレベルは実際の利用やスキルである。インターネットを利用可能な環境にはいるが利用していない、利用できていないケースもあり、年齢や低学歴・低収入など社会経済的格差が存在していることがわかっている。またICTを活用している場合でも、インターネットやデジタル機器の基本的な使用技術を身につけているかどうか、多様なデジタルツールやサービスを使いこなすことができるか、さらにはセキュリティを理解し安全な活用ができるかなど、リテラシーの格差もここに含まれる。3つ目のレベルはアクセス・利用スキルなどにより生じる社会的、経済的、文化的な様々な格差である。例えば、ICTをうまく使いこなすことで収入を増やすことも十分可能であり、教育機会・環境にもICTは大きな影響を与えている。デジタル化に伴い、収入や学歴などの社会経済的格差が生じるとどうなるだろうか。収入や学歴が健康に及ぼす影響はこれまで多く報告されてきている。つまり、デジタル化に伴う社会経済的格差が、さらなる健康格差につながる可能性がある(間接経路)(図2)。

図2、デジタルデバイドと健康格差の関連を表す図。
図2 デジタルデバイドと健康格差

2.デジタルから生まれるリアルでのつながり

 もう1つの間接経路がある。日本人高齢者を対象にした研究で、インターネット利用は友人との交流や社会参加を増やす可能性が報告されている2),3)。特にコミュニケーションを目的にインターネットを利用している人でそのような効果が期待できそうで、ネットでのつながりがリアルでのつながりにも波及していることが推測される。例えばLINEなどのメッセンジャーアプリを利用することで連絡が気軽にでき、集合場所や時間などの共有も簡易にできるようになった。また、イベントなどの情報も共有され、新たなつながりにつながっている可能性もある。このような人や社会とのつながりが健康やウェルビーイングに影響を与えることに関しては多くのエビデンスがあり、死亡・認知症・介護やうつ、幸福感などの精神的ウェルビーイングにも影響を及ぼしうる4)。しかし、インターネット利用に社会経済的格差がある状況では、このようなインターネットによる恩恵に格差が生じ、健康格差が拡大してしまう恐れがある。

3.デジタルでのつながり

 また、インターネットは直接的にも健康に影響を及ぼし得る。その1つにオンラインでのコミュニケーションがある。新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、対面での交流が制限される事態となった。そこで注目されたのがオンラインでのコミュニケーション、特に相手の顔を見ながら会話ができるビデオ通話である。日本人高齢者を対象にした研究で、オンラインでのコミュニケーションが3年後のうつ症状を予防する可能性が報告されている5)。さらに、新型コロナウイルス感染症流行下前後のデータを用いた研究では、対面での交流にはかなわないものの、オンラインでのコミュニケーション、特にビデオ通話でうつ症状を予防する可能性が示唆されている(図3)6)。家族が遠隔に住んでいたり施設に入所したりしていて対面での会話が制限されるような状況では、オンラインでのコミュニケーションがある程度代替として有効かもしれない。また最近ではメタバースなどでのコミュニケーションも拡大してきている。対面での交流とデジタルでの交流が相互にどのように健康やウェルビーイングに影響を及ぼすのか、今後の重要な検討課題である。

図3、コロナ禍における高齢者の交流とうつの関係を表す図。
図3 コロナ禍における高齢者の交流とうつの関係
(出典:Shioya R, Nakagomi A, et al. Soc Sci Med. 20236)より筆者作成)

4.インターネットと健康行動

 さらに、インターネットを利用している人では3年後に健康診断を受診している人が約1.1倍と10%程度多いことがわかった3)。インターネット上で健康に関する情報を調べたり、健診の会場や日時、さらには申し込みもインターネット上で可能となってきている。インターネット利用により、健康に直接影響を与えるような行動につながる可能性がある。

ゲームで健康に?

 現在、ゲームはゲーム機やパソコン、さらにはアプリやタブレットなど様々なデバイスでプレイすることが可能である。令和3年社会生活基本調査によれば、ゲームが趣味・娯楽と答えた人が約40%であり第3位であった(第1位はCD・スマートフォンなどによる音楽鑑賞、第2位はテレビ、DVD、パソコンなどでの映画鑑賞)。高齢者でも約10~15%が趣味・娯楽としてゲームと回答しており、今後ますます高齢者のプレーヤーが増加していくと考えられる。

 ゲームには攻撃性や反社会行動を高める・依存といった負の側面が指摘される一方で、教育やヘルスケア領域でも活用されるようになっている。最近では、高齢者の生きがい創出やフレイル予防、認知症予防などを目的にeスポーツ(ゲームでの対戦をスポーツ競技として捉える際の名称)が自治体や通いの場、老人クラブなどで行われてきている。ゲームを自宅で一人でプレイするのではなく、人が集まる場所で参加者同士が対戦、それを周りが応援することで一体感が生まれ、精神的にもポジティブな影響が期待される。

 筆者たちはeスポーツが生きがいや生活の満足度向上に有効か、他世代との交流を増やすのかを千葉市老人クラブ連合会に協力いただき検証を行っている(写真)。クラスターランダム化比較試験という手法で、各老人クラブで事前に2グループに分かれていただき、eスポーツを体験する群と普段通りの活動をする群の2つにランダムに振り分けるデザインである。現在100名を超える参加者に協力いただいているが、eスポーツやゲームに乗り気でない、前向きでない方もeスポーツ体験群に振り分けられるケースも当然あった。しかし一度体験してみるとぜひ続けたいという人が多く、高齢者でも環境があればゲームを楽しむことが十分に可能であることがわかった。中にはクラブ内で同好会をつくったり、他クラブと対抗戦をするというような広がりを見せている。また、孫にスマホにゲームをインストールしてもらったという参加者もいた。

大勢で集まってeスポーツを楽しむ老人クラブの皆さんの写真(写真提供:千葉市老人クラブ連合会)。
写真 大勢で集まってeスポーツを楽しむ老人クラブの皆さん
(写真提供:千葉市老人クラブ連合会)

 また別の研究では、お互いに知らない方同士で週1回、計4回の体験をしていただいた。最初は参加者同士の会話も少なかったが、3回目から連絡先の交換やeスポーツ体験外での交流も生まれるようになった。体験に参加した理由として、新たなことに挑戦したかったという声や、終了後もぜひ続けたいという方も多く、eスポーツの多面的な可能性が示唆される結果であった。

 ゲームを通した子どもや孫世代との多世代交流を目的にしたイベントなども開催されており、デジタルを活かした多世代がつながるまちづくりのツールとしてeスポーツの可能性が期待されている。一方でeスポーツの導入や継続的な活動のための支援体制も重要であり、人材育成も同時に行う取り組みが進められている。

さいごに

 社会のデジタル化に伴い生活が便利になる一方で、誰一人取り残さない取り組みの重要性が増している。デジタル化による健康格差の現状を踏まえると、デジタルデバイドの縮小は喫緊の課題である。そのためにはデジタル機器の使い方をただ教えるにはとどまらない、高齢者が自然とデジタルに触れる、使いたくなる環境づくりも重要である。例えばeスポーツのような、楽しい、新たなことへの挑戦になる、子どもや孫世代との交流ができるなど、ただデジタル機器を使うにとどまらないコンテンツをうまく活用し、デジタルを活用するモチベーションを高める仕掛けが今後ますます重要になると考えられる。

文献

  1. 総務省:令和4年通信利用動向調査の結果(外部サイト)(PDF:3.8MB)(新しいウインドウが開きます)(2024年6月20日閲覧)
  2. Chishima I, Nakagomi A, Ide K, Shioya R, Saito M, Kondo K.: The Purpose of Internet Use and Face-to-Face Communication with Friends and Acquaintances among Older Adults: A JAGES Longitudinal Study. J Appl Gerontol (in press).
  3. Nakagomi A, Shiba K, Kawachi I, et al.: Internet use and subsequent health and well-being in older adults: An outcome-wide analysis. Computers in Human Behavior. 2022; 130: 107156.
  4. Nakagomi A, Tsuji T, Saito M, Ide K, Kondo K, Shiba K.: Social isolation and subsequent health and well-being in older adults: A longitudinal outcome-wide analysis. Social Science & Medicine. 2023; 327: 115937.
  5. Nakagomi A, Shiba K, Kondo K, Kawachi I.: Can Online Communication Prevent Depression Among Older People? A Longitudinal Analysis. J Appl Gerontol. 2022; 41(1): 167-175.
  6. Shioya R, Nakagomi A, Ide K, Kondo K.: Video call and depression among older adults during the COVID-19 pandemic in Japan: The JAGES one-year longitudinal study. Social Science & Medicine. 2023; 32: 115777.

筆者

いのうえしげる氏の写真。
中込 敦士(なかごみ あつし)
千葉大学予防医学センター 社会予防医学研究部門准教授
略歴
2007年:千葉大学医学部卒業、国保松戸市立病院初期研修医、2009年:多磨南部地域病院循環器内科医員、2010年:千葉県循環器病センター循環器内科医員、2015年:千葉大学大学院医学薬学府循環器内科学博士課程(環境健康科学専攻)修了、千葉大学医学部附属病院循環器内科医員、2019年:武見フェロー(ハーバード公衆衛生大学院)、2021年:千葉大学予防医学センター特任助教、2023年:同特任准教授、2024年より現職
専門分野
社会疫学

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2024年 第33巻第2号(PDF:5.3MB)(新しいウィンドウが開きます)

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