独居高齢者が抱える問題とその背景、それを解消するには何が必要か
公開日:2017年7月12日 12時00分
更新日:2019年2月 1日 21時58分
杉澤 秀博(すぎさわ ひでひろ)
桜美林大学大学院老年学研究科教授
課題の設定
世帯構成でみると、近年、高齢者の間で独居の割合が増加している。独居高齢者の増加は問題といえるのであろうか。
独居高齢者は、うつ、孤立、貧困の割合が高いなど、「要援護」状態の人が多いことから、その増加を問題視する見方がある。他方では、未婚、結婚しても子どもをつくらない、子どもがいても子どもとの同居を望まないなど、個人の生き方として独居を選択しているのだから、その増加そのものはあまり問題にしなくてもよいという見方もある。マスコミなどでは、独居高齢者の孤独死がセンセーショナルに取り上げられており、現状では、前者の見方をする人が多いのではないだろうか。
しかし、いずれの見方をするにしても、独居高齢者はどのような問題を抱えており、その問題の背景・要因は何かをきちんと理解することが、独居高齢者の増加への対応を考える際に重要なこととなる。
本稿では、筆者が加わったプロジェクト研究のデータおよび、既存の研究知見を活用しながら、以下3つの課題について考えてみることにしたい。
第1には、独居高齢者はどのような問題を多く抱えているのか、同居者のいる高齢者との比較を通じて明らかにすること。第2には、独居高齢者が抱える問題は独居そのものが原因であるのか、それとも、独居高齢者に問題発生の
リスクが多く集積していることによるのかを明らかにすること。第3には、独居高齢者が抱える問題を解消するために何が必要か、独居高齢者に特に必要なことは何かを明らかにすることである。
独居高齢者が抱える問題
日本のみでなく、伝統的な家族主義が残るアジア諸国、個人主義が普及している欧米など多くの国において、独居高齢者を対象とした研究が行われている。研究の中には、「独居高齢者は特別に多くの問題を抱える対象とみることはできない」という結論を出した研究もみられる1)。
日本では、独居高齢者がどのような問題を抱えているのか、同居者のいる高齢者との対比においてみてみたい。解析のためのデータは、筆者が関わった研究プロジェクトのデータである。
調査は、東京都下A市の65歳以上の高齢者から無作為に抽出された約4,000人を対象に、2016年に実施された。回収数は2,698人であり、分析の対象は高齢者本人が回答した2,565人である。
表は、独居高齢者と同居者がいる高齢者との間で、基本属性、健康指標、生活評価指標、社会経済階層指標、社会関係指標を比較した結果を示したものである。
統計的にみて意味のある差がみられた指標を示すと、独居高齢者では同居者がいる高齢者と比較して、うつが疑われる人の割合が高く、さらに生活上の不安を多く抱えるなど、精神・心理面で問題を抱えた人が多い。加えて、就学年数が短い、世帯収入が低いなど社会階層的にも低い層に属する人が多い。精神的な支えや手段的な支えという社会的支援の面においても、独居高齢者は同居者がいる高齢者と比較して不利な状況に置かれている。
他方では、身体健康面では、手段的日常生活動作障害の程度が低い、社会関係の面でも別居家族・近隣の人・友人など同居家族以外の人との交流頻度が、独居高齢者では同居者がいる人と比較してむしろ多いなど、健康・生活のすべての面で不利な状況に置かれているわけではない。
以上の結果は、日本の都市的地域の高齢者を対象とした調査データの分析から得られたものであり、一般化するのは慎重でなければならない。同じような結果は、内閣府が実施した全国調査2)、さらに、日本以外のアジア諸国3)、欧米でも共通してみられている4)。
ただし、解釈において慎重であることが必要な結果もある。たとえば、独居高齢者で手段的日常生活動作の水準が高いのは、独居がこれらの動作の維持に貢献するからと考えることもできるが、他方では日常生活動作に支障が生じるようになった場合、独居生活が継続できなくなるため、独居者の間で日常生活動作の水準が高く維持されているという解釈も可能である。
特性 | 独居高齢者 | 同居者のいる高齢者 |
---|---|---|
年齢(単位=歳) | 76.9↑ | 74.9 |
性(男性の割合) | 30.1↓ | 47.9 |
依存疾患数 | 1.38↑ | 1.18 |
うつが疑われる割合 | 43.1↑ | 30.6 |
手段的日常生活動作の障害割合注2) | 3.6↓ | 5.6 |
生活不安スコア注3) | 2.43↑ | 2.17 |
就学年数 | 12.2↓ | 13.4 |
世帯年収(単位=万) | 221↓ | 356 |
組織・団体への参加頻度(月当たりの回数) | 4.47 | 5.00 |
別居親族・近隣・友人との交流頻度(月当たりの回数) | 11.0↑ | 9.58 |
社会的支援スコア注4) | 2.57↓ | 2.88 |
注1)↑(上向きの矢印)は、ついている群が統計的にみて意味ある高い数値であること、↓(下向きの矢印)は、ついている群が統計的にみて意味のある低い数値であることを示している。
注2)手段的日常生活動作5項目の「できない」という回答割合の平均値である。
注3)「必要なときに十分な医療を受けられない」など、生活不安に関する8項目について、「非常に不安」から「まったく不安がない」の4段階の選択肢に4点から1点を配点し、その平均値を算出したものである。
注4)「手段的」「情緒的」「情報的」の3種類の支援について、提供してくれる人がいるという支援の種類数の平均を示している。
独居そのものが問題か?
なぜ、独居高齢者では、うつが疑われる割合が高く、生活不安が高いなど精神・心理的で問題を多く抱えているのであろうか。独居であることが、そもそもうつの増大や生活不安のリスク要因であるのか、それとも独居高齢者の間で、精神・心理的な問題を引き起こす何らかのリスク要因が多く存在するため、このような問題が深刻になっているのだろうか。
独居高齢者にリスク要因が多く存在するため、精神・心理的な問題が起こっているとすれば、抜本的な対策はそれらのリスク要因の除去である。現状では、独居そのものに何らかの原因があることを示唆した研究もあれば5)、リスク要因が多く集積することによって説明できるとする研究もあり6)、定まった結論は得られていない。
前述のように、筆者が加わっている研究プロジェクトのデータでは、独居高齢者でうつが疑われる割合が高かった。この問題を事例として取り上げ、独居そのものが問題か、それとも他のリスク要因によって説明できるかについて検討してみたい。その際、どのようなリスク要因を取り上げるかが重要な点となる。
図1には、どのようなリスク要因を取り上げるかを示した。うつのリスク要因であり、かつ独居高齢者の間で同居者のいる高齢者と比較して多くみられた要因には、「就学年数が短い」「世帯収入が低い」「社会的支援が乏しい」「併存疾患が多い」がある。これらリスク要因が多く存在することが、独居高齢者の間でうつと疑われる人の割合を増加させているとみることができるのであろうか。
図2には、分析の結果を示した。分析方法の記述は省くが、独居高齢者と同居者がいる高齢者の間でうつが疑われる割合の差を100とした場合、「世帯収入が低い」ことがその差の40.0を、「社会的支援に乏しい」ことがその差の29.5を、「併存疾患が多い」ことと「就学年数が短い」ことがそれぞれ6.3と5.5を説明している。これらの割合を合計すると、うつが疑われる割合の差の81.3が、これら4つのリスク要因の分布の違いによって説明されたことになる。独居が
リスク要因を介さずにうつが疑われる割合の高さに貢献している部分は18.7のみに減少していた。
この結果から考えると、独居高齢者における「うつ」が疑われる割合を低下させるための抜本的な改善策は、「収入への援助」と「社会的支援の強化」ということになる。
独居高齢者のうつの改善に特に重要なことは
独居高齢者のうつの改善にとって、「収入の向上」と「社会的支援の強化」が重要であることが示されたが、これらは、独居高齢者に特有の改善策ではなく、同居者がいる高齢者においても共通する改善策である。独居高齢者のうつの改善にとって特に重要な要因はないのであろうか。
これまでの研究では、独居高齢者のみを対象にうつや生活満足度に関連する要因を分析した研究が多い。その結果、独居高齢者におけるうつの改善や生活満足度の向上に効果のある要因が解明できたとしても、これらの要因が同居者がいる高齢者と比較した場合、特に効果的なものか否かは明確でない。
本報告では、うつの改善に効果がある要因として取り上げられている資源的な要因、すなわち、収入、社会的支援、同居家族以外の人との交流、地域組織や団体への参加に着目し、その効果が独居高齢者と同居者のいる高齢者とで異なるか否かを分析することで、独居高齢者のうつの改善に特に効果的な支援を特定してみたい。
先のデータを用いて分析した結果を図3に示した。分析方法の記述は省くが、家族以外の人との交流頻度がうつが疑われる割合に与える影響は、独居高齢者のほうが同居者がいる高齢者と比較して大きい。すなわち、同居家族以外
の人との交流が少ない場合、独居高齢者の間でうつが疑われる割合は同居者がいる高齢者の2倍弱であったが、同居家族以外の人との交流が多い場合には、両者でうつが疑われる割合にほとんど差がなくなった。
これまでの研究においても、外部の人との交流や組織への帰属が特に独居高齢者に重要であることが示されており7),8)、本報告の分析結果はある程度一般化ができるものである。独居高齢者の場合、同居者がいない分、「周囲の人との交流がうつを改善するために特に重要である」とみることができよう。
加えて注目したいのは社会的支援についてである。同居者がいる場合には、社会的支援が大きいことはうつが疑われる割合の低下に貢献していたものの、独居高齢者においては、社会的支援が多い人でも少ない人でもうつが疑われる割合にほとんど差がなかった点である。
この結果の解釈の1つとして次のような見方ができる。社会的支援については、一方的に支援を受けることがうつにとってマイナスの効果をもっていることも明らかにされているので9)、「支援を受けることで自尊心が傷つけられ、自分が弱い人間という意識が強められた結果、うつが悪化するのではないか」という仮説である。したがって、独居高齢者の中には、家族も含め、お互いに干渉されない生活を指向する人も少なくなく、支援を受けることをよしとしない人も多いことを考慮しながら、支援策を考えることが必要といえよう。
以上の考察は、前項で示した結果(独居高齢者と同居者のいる高齢者でうつが疑われる割合の差が社会的支援による差でかなり説明されたこと)に基づき、「独居高齢者のうつの改善には社会的支援を強化することが必要だ」ということにはならないことも示唆している。
おわりに
本稿では、独居高齢者の抱える問題の発生メカニズムとともに、独居高齢者問題の改善にとって特に有効な資源は何かを科学的に解明することで、問題解決のための対策への手がかりを得ることを試みた。
その結果、独居高齢者においてうつが疑われる割合の増加に影響していた要因である「収入の低さ」、さらにうつの改善に特に効果のあった「外部の人とのネットワークに着目すること」が必要であることが示唆された。
次の課題としては、独居高齢者に経済的不利がなぜ蓄積されるのか、その原因を解明することである。その際、高齢期に限定して原因を捉えるのではなく、それ以前のライフコースにまでさかのぼって原因解明を試みる必要がある。
しかし、これらの研究はいまだ十分とはいえない。今後の研究の推進を期待したい。
参考文献
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- Kharicha, K., Iliffe, S., Harari, D., Swift, C., Gillmann, G., andStuck, A.E. 2007. Health risk appraisal in older people 1: areolder people living alone an 'at-risk' group? British Journal ofGeneral Practice. 57, 271-276.
- Oh, D.H., Park, J.H., Lee, H.Y., Kim, S.A., Choi, B.Y., and Nam,J.H. 2015. Association between living arrangement and depressive symptoms among older women and men in South Korea. Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology. 50, 133-141.
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- Michael, Y.L., Berkman, L.F., Colditz, G.A., and Kawachi, I. 2001. Living arrangements, social integration, and change in functional health status. American Journal of Epidemiology 153(2), 123-131.
- Chan, A., Malhotra, C., Malhotra, R., and 0stby, T. 2011. Living arrangements, social networks and depressive symptoms among older men and women in Singapore. International Journal of Geriatric Psychiatry. 26, 630-639.
- Krause, N. 1997. Received support, anticipated support and mortality. Research on Aging. 19, 387-422.
筆者
- 杉澤 秀博(すぎさわ ひでひろ)
- 桜美林大学大学院老年学研究科教授
- 略歴:
- 1987年:東京大学大学院医学系研究科保健学博士課程修了、1987年:東京都老人総合研究所研究員、2002年より現職
- 専門分野:
- 老年社会学。保健学博士
転載元
公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.82