高齢者新型コロナウイルス感染症の診断・治療・予防
公開日:2021年7月 9日 09時00分
更新日:2024年8月14日 09時53分
小金丸 博(こがねまる ひろし)
東京都健康長寿医療センター感染症内科医長
こちらの記事は下記より転載しました。
はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年12月に中国湖北省武漢市で流行が確認されてから数か月の間に急速に世界中に拡大し、2021年4月4日現在、1億3千万人を超える確定患者と、約280万人の死亡例が報告されるに至った1)。COVID-19は、高齢であること自体が独立した重症化のリスク因子であることがわかっているが、特に糖尿病や心血管疾患などの基礎疾患を有する患者では高い死亡率の原因となる2)。また、特別養護老人ホームや老人保健施設などの高齢者介護施設において数多くの集団感染(クラスター)が発生し、高齢者医療の現場ではケアと感染対策の両立のむずかしさに直面している。
臨床症状
COVID-19の潜伏期間は平均5日であり、発症する場合、97.5%の患者が感染から11.5日以内に症状が出現する3)。中国でのCOVID-19患者44,672人の研究では、患者の81%が軽症、14%が重症であり、5%が呼吸不全、敗血症性ショック、多臓器不全など致死的な症状を呈した4)。
入院患者の一般的な症状は、発熱(90%)、乾性咳嗽(がいそう)(60~86%)、息切れ(53~80%)、倦怠感(38%)、嘔気・嘔吐または下痢(15~39%)、および筋肉痛(15~44%)である5)。嗅覚・味覚障害は特徴的な症状とされ、患者の64~80%で報告されている5),6)。無嗅覚症または味覚消失は、患者の約3%で唯一現れる症状である可能性がある6)。
高齢者、特に多数の慢性疾患を有するフレイルの状態にある高齢者では非典型的な症状を呈しやすく、精神状態の変化やせん妄、原因不明の頻脈などが主症状となることがある7)。COVID-19の臨床症状を60歳以上と60歳未満で比較した研究によると、60歳以上で38.1℃以上の発熱や息切れを多く認め、鼻閉、頭痛が少ない傾向であった(表)8)。
臨床症状 | 60歳未満 (n=652) | 60歳以上 (n=136) | P値 |
---|---|---|---|
発熱 | 79.9% | 84.6% | 0.211 |
<37.3℃ | 21.2% | 10.3% | 0.003 |
37.3~38.0℃ | 42.0% | 35.3% | 0.146 |
38.1~39.0℃ | 29.6% | 40.4% | 0.013 |
>39.0℃ | 7.2% | 14.0% | 0.010 |
咳 | 64.6% | 62.5% | 0.647 |
喀痰 | 33.1% | 36.0% | 0.515 |
血痰 | 1.8% | 2.2% | 0.732 |
咽頭痛 | 14.4% | 12.5% | 0.559 |
鼻閉 | 6.9% | 1.5% | 0.015 |
筋肉痛 | 10.9% | 14.7% | 0.205 |
疲労感 | 17.6% | 17.7% | 0.998 |
息切れ | 3.1% | 12.5% | <0.001 |
消化器症状 | 11.8% | 8.1% | 0.210 |
頭痛 | 10.3% | 5.9% | 0.112 |
急性期を過ぎた後も、患者によってはLong COVIDと呼ばれる後遺症があることが明らかになってきた。特に高齢者や基礎疾患のある人で症状が遷延しやすい傾向がある。イタリアの調査によると、発症から約2か月後に87%の患者で何らかの症状の訴えがあり、倦怠感(53.1%)、呼吸困難(43.4%)、関節痛(27.3%)、胸痛(21.7%)の頻度が高かった。その他、咳嗽、嗅覚障害、目や口の乾燥、鼻炎、結膜充血、味覚障害、頭痛などの症状がみられた。32%の患者で1~2つの症状があり、55%の患者で3つ以上の症状を認めた9)。
重症化のリスク因子
重症化のリスク因子として高齢者、基礎疾患(慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、心血管疾患など)が知られている(図)。日本でのCOVID-19の入院患者レジストリCOVIREGI-JPでは、併存疾患がない症例と比較し、慢性腎臓病、肝疾患、肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病を有する患者で入院後に重症化する割合が高かった10)。
図 重症化のリスク因子
(厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第4.1版. 202010)より引用)
- 重症化のリスク
- 65歳以上の高齢者
- 悪性腫瘍
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 慢性腎臓病
- 2型糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
- 肥満(BMI 30以上)
- 喫煙
- 固形臓器移植後の免疫不全
- 評価中の要注意な基礎疾患など
- ステロイドや生物学的製剤の使用
- HIV感染症(特にCD4<200/μL)
- 妊婦
重症患者を対象としたメタ解析によると、CRP、プロカルシトニン、D-ダイマー、フェリチンの上昇は、重症化の予測マーカーとなる可能性が報告されている11)。これらのマーカーを入院時にスクリーニングし、経時的変化を評価することで、重症化のサインを見落とさないように心がける。
診断検査12)
COVID-19を診断するための検査は、①遺伝子検査、②抗原検査、③抗体検査に分類される。遺伝子検査あるいは抗原検査が陽性となった場合は診断確定となるが、ウイルス量が少ない例では検出限界以下となることに留意する。また、排出ウイルス量は経時的に変化するため、適切なタイミングでの検体採取が求められる。
1.遺伝子検査
定性的に確認する方法として古典的PCR(Polymerase Chain Reaction)法と、簡便に判定できる検査方法としてLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法などが開発されている。PCR法の特異度はとても高いと考えられるが、接触歴のない無症候者が陽性となった場合は偽陽性の可能性も考慮する。PCR法の感度は明確ではないが、66~80%程度と見積もられている13)。有症状の濃厚接触者などCOVID-19を強く疑う患者では、1回のみのPCR検査陰性をもってCOVID-19を除外すべきでない。
SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)は上気道から感染するため、感染初期には鼻咽頭ぬぐい液が信頼性の高い検体となる。医療者が検体を採取する際に飛沫に曝露するリスクが高いため、個人防護具の着脱や採取場所の分離など感染予防策を徹底する必要がある。
唾液検体は患者自身が採取でき、採取時に飛沫が飛び散ることが少なく、周囲への拡散リスクが低い検体である。発症から9日以内であれば、唾液を用いたPCR検査の感度は鼻咽頭ぬぐい液と同程度と報告されている14)。飲食や歯みがき直後の唾液採取はウイルスの検出に影響を与える可能性があるため、飲食などの後は目安として最低10分以上、できれば30分程度あけることが望ましい。高齢者では生理的に唾液量が減少しているため、適量の唾液を採取できない場合も多い。また認知症などで指示に従うことができない高齢者では、唾液を適切に採取することは困難である。
2.抗原検査
SARS-CoV-2の構成成分である蛋白質を検出する検査法であり、定性検査と定量検査がある。抗原定性検査は遺伝子検査とともに有症状者の確定診断として用いることができ、発症2~9日目の症例では陰性の診断としても用いることができる。定性検査は簡便で迅速なPoint-of-Care Test(臨床現場即時検査)であり、外来やベッドサイドにおける有症状者のスクリーニングに有用である。抗原定量検査はウイルス抗原の量を測定することができ、特異度が高く、感度もLAMP法などの遺伝子検査と同等である。
リアルタイムPCR法と比較すると、抗原定性検査はウイルス量が少ない検体で検出感度が低いと考えられている。また、検体の粘性が高い場合や小児例などで偽陽性が生じることが報告されている。
3.抗体検査
抗体検査はウイルスそのものを検出する検査ではなく、ウイルスに対する抗体の有無を調べる検査であり、症状出現後1~3週間経ってから陽性となる。抗体検査の診断精度をシステマティックレビューとメタ解析により検証した研究によると、発症後3週以上の感度が69.9~98.9%であったのに対して、発症から1週間以内では13.4~50.3%と低かった15)。抗体検査が陽性であっても、検査時点でウイルスが排出されていることを意味するわけではない。抗体検査は急性期の診断には不向きな検査であり、過去の感染を判定するための疫学調査などに用いるのが妥当である。
薬物治療10),16)
COVID-19に対する薬物治療は、①抗ウイルス療法、②免疫抑制療法、③抗凝固療法に大別される。ほとんどの若年者にとっては自然に治癒する疾患であり、治療は対症療法が主体となるが、重症化や死亡リスクの高い高齢者では、適切なタイミングで適切な治療法を組み合わせて行うことが肝要である。COVID-19では、発症数日はウイルス増殖そのものが与える影響が問題となり、発症7日前後からは宿主の免疫による過剰な炎症反応が主病態であると考えられている。そのため、発症早期には抗ウイルス薬が、徐々に悪化傾向を示す発症7日前後以降の病態では免疫抑制薬の投与が理にかなった治療法である。酸素吸入が必要なほど呼吸状態が悪化している患者、高齢者(およそ60歳以上)、糖尿病、心血管疾患、慢性肺疾患、慢性腎障害、肥満、悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患、免疫抑制状態などにある患者では、慎重な経過観察を行いながら薬物治療を開始することを検討する。
1.抗ウイルス療法
治療薬の開発が進んでいるものの、本稿執筆の2021年4月時点では特効薬といえる抗ウイルス薬は存在しない。本邦で承認されている抗ウイルス薬はレムデシビルである。2020年5月7日に国内での特例承認制度に基づき薬事承認された。レムデシビルはRNAウイルスに対して広く活性を示すRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬である。米国で行われたランダム化比較試験で、レムデシビル投与群はプラセボ投与群と比較して臨床的改善までに要する日数が5日間短縮した(10日間vs15日間)17)。これまでの知見から、レムデシビルはすでに人工呼吸管理や高流量の酸素投与に至った重症例では効果が期待できない可能性が高いが、そこまでに至らない酸素需要のある症例では有効性が見込まれる。
2021年1月に本剤の添付文書が改訂され、投与対象が「酸素飽和度94%(室内気)以下、または酸素吸入を要する、または体外式膜型人工肺(Extracorporeal Membrane Oxygenation:ECMO)導入、または侵襲的人工呼吸器管理を要する重症患者」から、「SARS-CoV-2による肺炎を有する患者」へ適応拡大された。挿管例やECMO症例を除くと投与期間は原則として5日間が推奨されるが、個々の患者状況に応じて判断する。肝機能障害、腎機能障害、下痢、皮疹などの副作用の頻度が高く、重篤な副作用として多臓器不全、敗血症性ショック、急性腎障害、低血圧が報告されており18)、高齢者に投与する際には特に注意を要する。
その他の薬剤として、ファビピラビルなどの臨床試験が行われており、治療薬として期待される。
2.免疫抑制療法
重症のCOVID-19患者では、全身性炎症反応により肺障害や多臓器不全を引き起こすと考えられており、コルチコステロイドの抗炎症作用によって過剰な炎症反応を抑制することで、重症化を防止する可能性が示唆されている。英国で行われた入院患者を対象としたランダム化比較試験において、デキサメタゾンの投与を受けた患者は、標準治療を受けた患者と比較して死亡率が減少したことが示された19)。予後改善効果は人工呼吸管理や酸素投与を必要とした患者で認めたが、試験登録時に酸素投与を必要としなかった集団では認めなかった。デキサメタゾンはCOVID-19患者に対して死亡率の減少効果を示した薬剤であり、酸素投与を要するCOVID-19患者では積極的に投与を検討する。使用する際には血糖コントロールや消化性潰瘍の予防など副作用の管理を行う。
その他の薬剤として、ヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体であるトシリズマブやヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬であるバリシチニブなどは、国内外で臨床試験が行われている。
3.抗凝固療法
COVID-19患者に対する重要なマネージメントのひとつが血栓症の予防である。COVID-19では血栓形成や血管障害の合併が多いことが報告されている20)。肥満、寝たきりなどの患者因子に加えて、D-ダイマー値や血小板数をモニタリングし、血栓症の発症リスクが高いと判断した場合にはヘパリンなどの抗凝固薬の投与を検討する。
重症患者の治療オプション10)
酸素マスクによる酸素投与でも動脈血酸素飽和度を維持できなくなった場合、人工呼吸への移行を考慮する。気管挿管はエアロゾルが発生する手技であることに留意し、フェイスシールドの装着に加えて空気感染予防策(N95マスク装着)を実施する。
人工呼吸を行っても酸素化を維持できず悪化が進行する場合、回復が見込めると判断した場合にはECMOの使用が治療オプションとなる。人工肺によって酸素と二酸化炭素の交換を行うのがECMOであり、ガス交換をする人工肺と、体内から血液を取り出し人工肺に血液を送り体内に送り戻す血液ポンプによって構成される。回路の中で抗凝固薬を使用するため、出血のリスクを伴う。ECMO治療の適応外として、末期がんなど不可逆性の基礎疾患を有する患者があげられる。慢性心不全、慢性呼吸不全、重度の慢性臓器不全を合併している患者や高齢患者(65~70歳以上)ではECMO治療を行ったとしても予後不良である。
COVID-19患者に対しては腹臥位療法の有用性が報告されており、酸素化の改善が乏しい患者では積極的に検討する21)。
ワクチンによる予防22)
世界中で多くのCOVID-19ワクチンの開発が進行し、日本においてもファイザー社のワクチンが薬事承認された。2021年2月に医療従事者から接種が始まり、続いて高齢者への接種が進められる。
ファイザー社のmRNAワクチンは有効率95.0%と非常に優れた成績が報告されている23)。年齢層別では、55歳以下で95.6%、56歳以上で93.7%、65歳以上で94.7%の有効率がみられているが、75歳以上では対象者数が少なく十分な評価ができていない。副反応としては疼痛の頻度が高く、倦怠感、頭痛、寒気、嘔気・嘔吐、筋肉痛などの全身反応の頻度が高い。1回目の接種後に38℃以上の発熱を認めることは少ないが、2回目の接種後には10~17%にみられる。
mRNAワクチンによるアナフィラキシーの頻度は100万接種あたり4.5と報告されている24)。アナフィラキシーの原因物質のひとつに薬剤や化粧品などに使用されるポリエチレングリコールがあげられており、これらに対するアレルギー歴がある者では注意が必要である。
高齢COVID-19患者の入院管理の問題点
高齢者におけるCOVID-19ではせん妄や精神状態の変化が主症状となることがあるが、もともと認知症がある高齢者が入院となった場合は、それらのリスクはさらに高まる。また、日常生活動作(ADL)の保たれている認知症患者では、病棟徘徊のリスクを伴うことにも注意が必要である。
高齢患者では急速に症状が悪化した場合、生命の危険にさらされる可能性が高い。重症化する前に人工呼吸管理などの処置について、あらかじめ本人の意思を確認しておくことが望ましいが、家族の判断にゆだねられる場面も多く、本人の意思を尊重した終末期医療の実現が困難となる場合がある。
合併症などにより入院期間が長引くとADLが低下する高齢者は多い。治療後にリハビリテーションや療養が必要となる高齢患者は多いため、日頃から急性期病院と療養型病院の連携を密にし、スムーズに転院調整が行われるようにしておくことが望ましい。
おわりに
COVID-19に関して急速に知見が蓄積されてきたものの、高齢者に関するデータは限定的である。ワクチンの有効性や副反応の情報を含め、今後、さらなる研究が不可欠である。
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筆者
- 小金丸 博(こがねまる ひろし)
- 東京都健康長寿医療センター感染症内科医長
- 略歴
- 2001年:筑波大学医学専門学群卒業、2006年:筑波大学附属病院感染症科医員、2011年:筑波大学医学医療系講師、2017年より現職
- 専門分野
- 感染症一般
転載元
WEB版機関誌「Aging&Health」アンケート
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