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高齢期の栄養と口腔機能の関わり

公開日:2019年7月26日 09時20分
更新日:2024年8月14日 11時43分

本川 佳子(もとかわ けいこ)

東京都健康長寿医療センター研究所
自立促進と精神保健研究チーム研究員


高齢期に必要な栄養ケア

 日本は他の先進諸国に類を見ない速さで超高齢社会に突入し、高齢者人口の増加とともに介護を必要とする要介護高齢者の増加が予想され、その前駆状態であるフレイルの予防と改善が喫緊の課題となっている。

 われわれの研究において要支援・要介護認定を受けていない地域在住高齢者の悉皆調査を行い、55,362名のフレイル判定を行ったところ、フレイルに該当する者が10人に1人以上の高率で存在していたことが明らかとなり1)、早期からの適切な対応が必要である。サルコペニア、活動量低下などが相互に関連しフレイルに陥るという悪循環のモデルFrailty cycleが提唱され2)、その中で栄養は、食欲の低下、体重減少などといった要因が加速因子となることが示されている。

 フレイル予防のための食事に関する研究は、これまでたんぱく質摂取量がフレイルの発現と関連することが多く報告されている。高齢期では、筋肉量の減少や機能低下が起こるが、そのひとつの要因として1日当たりのたんぱく質摂取量が推奨量に達していないことが挙げられている3)

 特にたんぱく質の代謝の評価指標である窒素平衡がマイナスで摂取量に対し排出量が多い状態だと、推奨量を上回るたんぱく質の摂取が必要であるとの報告がある4)。また加齢により蛋白同化抵抗性(anabolic resistance)が起こり、骨格筋形成の同化抑制反応が若年期と比較して減弱化することからも5)、フレイルを予防するための食事は、たんぱく質摂取量を不足させないよう、十分な量を摂取することが重要である。大規模研究においても、たんぱく質摂取量が少ないグループほど、将来の除脂肪量の減少が大きく、39%の差があることが報告されている6)。また65歳以上のフレイルの状態にある女性に高たんぱく質食(1.23g/kg/日)を摂取させたところ、蛋白同化が亢進し、窒素平衡のバランスもプラスになったとの報告があり7)、高たんぱく質食の効果が示唆されている。

 2015年版日本人の食事摂取基準8)では、70歳以上高齢者のたんぱく質推奨量は1.06g/kg/日から算出され、男性60g/日、女性50g/日となっているが、フレイルの予防・改善という点では不足している可能性があり、今後地域や臨床におけるエビデンスの蓄積が必要と考える。

 最近では、単一の食品・栄養素の摂取ではなく、さまざまな食品を摂取する多様性の重要性が指摘されている。われわれは地域在住高齢者を対象とし、肉、魚介類、卵、大豆・大豆製品、牛乳、緑黄色野菜類、海藻類、いも類、果物、油脂類の10食品をそれぞれ「毎日食べる」を1点、それ以外を0点とした10点満点のスコア9)(図1)は、フレイル、プレフレイルに比較して健康なグループで有意に高値を示し(表1)、有意な関連を示すことを報告し10)、他の研究でも食品摂取の多様性の合計が6点以上のグループは5点以下と比較して除脂肪量が有意に高い値を示すとの報告がある11)

図1:様々な食品を摂取する多様性の重要性から、肉、魚介類、卵、大豆・大豆製品、牛乳、緑黄色野菜類、海藻類、いも類、果物、油脂類の10食品をそれぞれ「毎日食べる」を1点、それ以外を0点とした10点満点のスコアを表す図。
図1:食品摂取多様性スコア
表1:フレイル重症度と栄養指標の関連
健康プレフレイルフレイルp値
性別男性 41.4% 37.9% 40.3% 0.731
性別女性 58.6% 62.1% 59.3% 0.731
年齢 72.3±5.3 73.1±6.0 76.5±5.9 0.001
基本チェックリスト 1.4±1.1 5.3±1.1 9.8±2.1 <0.001
Body Mass Indexkg/m2 22.9±3.2 22.8±3.1 22.6±2.8 0.613
血清アルンブミン値g/dl 4.5±0.3 4.4±0.3 4.4±0.3 0.016
アルコール現在も飲んでいる 52.2% 46.7% 36.4% 0.042
アルコール過去飲んでいたが今は飲んでいない 6.2% 6.0% 13.0% 0.042
アルコール飲まない 41.6% 47.3% 50.6% 0.042
喫煙現在も吸っている 5.9% 14.3% 7.8% 0.006
喫煙過去吸っていたが現在は吸っていない 22.9% 26.9% 26.0% 0.006
喫煙吸わない 71.2% 58.8% 66.2% 0.006
既往歴高血圧 41.1% 46.2% 53.2% 0.113
既往歴脳血管疾患 5.2% 4.9% 9.1% 0.355
既往歴心疾患 12.3% 15.4% 11.7% 0.552
既往歴糖尿病 7.6% 14.8% 13.0% 0.020
既往歴脂質異常症 36.9% 33.0% 33.8% 0.113
食品摂取の多様性1 4.5±2.2 4.3±2.2 3.9±2.1 0.003
エネルギー摂取量1kcal/日 1,994±25 1,900±37 1,917±57 0.076
たんぱく質摂取量1g/日 86±1 85±1 83±2 0.297
たんぱく質摂取量1kcal/日 1.6±0.0 1.5±0.0 1.5±0.1 0.148
脂質摂取量1g/日 63±1 63±1 62±1 0.957
炭水化物摂取量1g/日 239±2 237±3 245±5 0.383

連続変量は分散分析、カテゴリー変数はχ2検定

1:性・年齢を調整した共分散分析

出典:Motokawa K et al, J Nutr Health & Aging(2018)10)

 このようにさまざまな食品を食べることが、たんぱく質をはじめ抗酸化物質などといったビタミンやミネラルの十分な摂取につながり、フレイルの予防、筋量・筋力の維持に貢献する可能性が示されている。

食事と咀嚼(そしゃく)機能との関連

 たんぱく質や多様な食品摂取を維持するための背景因子については、歯数との関連がさまざまな研究によって報告されている。75歳の高齢者の縦断研究において歯牙(しが)欠損の存在がたんぱく質、カルシウム、ビタミン類、野菜類、肉類の摂取低下につながることや12)、歯の喪失が進むことで野菜類などの噛みにくい食品を避け、デンプン類が豊富な食品を好むようになると報告されている13)。これらの結果は、歯数の維持が食事の摂取に重要であることを示すが、現在、歯数自体は介入不可能な項目である。Inomataらは14)、歯数と咬合(こうごう)力では、咬合力のほうが歩行速度、緑黄色野菜、魚介類の摂取、食物繊維、ビタミン類の摂取に関連することを報告している。また現在歯がなく、総義歯であっても約60%の人は、さきいか・たくあん程度の硬い食べ物も食べられると答えたとしている15)

 そこでわれわれは、口腔機能のうち咀嚼機能に着目し、LOTTE社製の咀嚼力判定ガムを用いて、地域在住高齢者509名を対象に食品・栄養素等摂取量の差について検討した。その結果、よく噛めるグループに比較して、噛めないグループは多くの栄養素、食品群別摂取量で低値を認めた16)(図2)。特に摂取量に10%程度の差を認めたのは、栄養素ではたんぱく質、脂質、鉄、ビタミンA、ビタミンCであり、食品群別摂取量ではいも類、緑黄色野菜、その他の野菜、海藻類、豆類、魚介類、肉類、種実類であった。咀嚼機能の低下している噛めないグループは、噛みごたえの高い食品を避けることや偏食傾向にあることが示された。また同様のグループ分けにより、血清アルブミン値4.0g/㎗をカットオフとした咀嚼機能と低栄養傾向との関連を検討したところ、よく噛めるグループでは低栄養傾向を示す者は10.1%であったのに対し、噛めないグループでは16.5%となっていた(図3)。

図2:咀嚼機能と食品・栄養素等摂取量との関連を示す図。咀嚼機能不良のグループは、多くの栄養素、食品群別摂取量で低値が認められる。
図2:咀嚼機能と栄養素等摂取量(板橋区新お達者健診)
図3:低栄養傾向と咀嚼能力の関係を示す図。噛めないグループでは、噛めるグループより低栄養傾向を示す者の割合が大きいことを表す。
図3:低栄養傾向と咀嚼能力の関係

 この背景として咀嚼機能の低下している噛めないグルプでは、たんぱく質の摂取量が減少し、蛋白同化抵抗性を加速させることが考えられる。このような口腔機能と栄養摂取の関係は栄養状態に限らず、その先の平均余命・健康余命に大きく関連することが推測される。

 先行研究においても、那須らは、65歳以上高齢者5,000人に郵送調査を実施し17)、咀嚼可能な食品を聞きとり、さきいか・たくあんが食べられる群を咀嚼能力5とし、それ以外の人を咀嚼機能4以下として平均余命、健康余命を比較検討した結果、平均余命は、65歳の時点でのみ有意差が認められたが(図4)、健康余命はすべての年代で、咀嚼力の違いにより有意差があるという結果が得られた(図5)。65歳代で2.8年の差、75歳代で2.2年の差、85歳代でも1.4年の差という結果が示されている。

図4:咀嚼能力と平均余命の関連を表すグラフ。65歳の時点での咀嚼能力の違いにより有意差があることを示す。
図4:咀嚼能力と平均余命の関係
図5:咀嚼能力と健康余命との関連を表すグラフ。健康余命はすべての年代で、咀嚼能力の違いにより有意差があることを示す。
図5:咀嚼能力と健康余命の関係

歯科と栄養連携の効果

 以上のように、口腔機能と栄養は切っても切れない関係にあり、最近では歯科単独、栄養単独ではなく、栄養指導と口腔機構向上や補綴(ほてつ)(歯がなくなった部分をかぶせものや義歯などの人工物で補うこと)を組み合わせたさまざまな介入研究が行われ、そのシナジー効果が報告されている。

 Bradburyらは総義歯のみ作成したグループと、総義歯作成+栄養指導を行ったグループでは、栄養指導が加わった群で栄養素等摂取量に有意な向上が認められたことを報告し18)、菊谷らは、要介護高齢者を対象に食支援のみ介入したグループと、食支援+口腔機能訓練を行ったグループでは、口腔機能訓練が加わった群で血清アルブミン値の上昇が有意に高かったことを報告している(図6)19)。またSuzukiらは総義歯作成とともに簡単な栄養指導を実施することで、栄養素等摂取量の増加と咀嚼機能の改善に効果的であったことを報告している20)。最近では栄養ケア・ステーション21)が開設され、歯科医院との連携も行われている。

図6:要介護者を対象に、食支援のみ行った場合、食支援と口腔機能訓練を行った場合を比較し効果測定を示した図。口腔機能訓練が加わると血清アルブミン値に有意差があることを示す。
図6:歯科と栄養の連携による効果

 今後、後期高齢者が増加する2025年問題、地域包括ケアシステムの進行など、新たな局面を迎えるわが国において、食べる力の維持という支援はさらに求められ、栄養と歯科の連携が不可欠となるだろう。栄養と歯科連携のエビデンスをさらに構築し、研究や臨床の場での活動を通じて、連携がより強固なものとなることが期待される。

参考文献

  1. 本川佳子, 枝広あや子, 杉山美香 他, 地域在住高齢者におけるフレイル重症度と生活状況に関する検討, 第4回日本介護福祉健康づくり学会(東京)2017
  2. Xue QL, Bandeen-Roche K, Varadhan R, et al. Initial manifestations of frailty criteria and the development of frailty phenotype in the Women's Health and Aging Study II. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2008;63(9):984-90.
  3. Guigoz Y. Vellas B. Garry P J. Mini Nutritional Assessment: a practical assessment tool for grading the nutritional state of elderly patients. The mini nutritional assessment: MNA. Nutrition in the elderly. 15-60, 1997.
  4. Campbell WW, Trappe TA, Wolfe RR et al., The recommended dietary allowance for protein may not be adequate for older people to maintain skeletal muscle, J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 56: 373-80, 2001.
  5. Prashanth HH, Donato AR, Roger AF, Role and potential mechanisms of anabolic resistance in sarcopenia. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 3: 157-162, 2012.
  6. H ouston DK, Nicklas BJ, Ding J et al., Dietary protein intake is associated with lean mass change in older, community-dwelling adults: the Health, Aging, and Body Composition (Health ABC) Study. Am J Clin Nutr, 87:150-5, 2008.
  7. Chevalier S, Gougeon R, Nayar K et al., Frailty amplifies the effects of aging on protein metabolism: role of protein intake. Am J Clin Nutr. 78:422-9, 2003.
  8. 日本人の食事摂取基準 2015年版:第一出版 佐々木敏、菱田明
  9. 熊谷修, 渡辺修一郎, 柴田博 他, 地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と工事生活機能低下の関連. 日本公衆衛生雑誌, 2003, 12,1117-1124.
  10. M otokawa K, Ayako E, Watanabe Y et al., Frailty and dietary variety in Japanese older persons: a closs-sectional study. J Nutr Health Aging, 2018, 22, 451-456.
  11. Yokoyama Y, Nishi M, Murayama H et al., Association of dietary variety with body composition and physical function in community-dwelling elderly Japanese. J Nutr Health Aging, 2016, 20, 691-696.
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  13. W akai K, Naito M, Naito T et al., Tooth loss and intakes of nutrients and foods: a nationwide survey of Japanese dentists. Community Dent Oral Epidemiol. 2010, 38, 43-49.
  14. I nomata C, Ikebe K, Kagawa R, Okubo H, Sasaki S, Okada T, Takeshita H, Tada S, Matsuda K, Kurushima Y, et al. Significance of occlusal force for dietary fibre and vitamin intakes in independently living 70-year-old Japanese: from SONIC Study. J Dent 2014, 42:556-564.
  15. I kuo Nasu, Saito Y. A Study of Masticatory Ability in the Nationwide Elderly Population Using a Functional Teeth Triangle Map. Japanese society of gerodontology 2001, 16:204-212.
  16. 本川佳子, 枝広あや子, 渡邊裕 他:地域在住高齢者における咀嚼機能と栄養素・食品群別摂取量および低栄養との関わり. 第59回日本老年医学会学術集会(名古屋)
  17. 那須郁夫:咀嚼能力の向上は健康余命を延伸する, 日本補綴歯科学会誌 4(4), 380-387, 2012.
  18. B radbury J, Thomason JM, Jepson NJ et al., Nutrition counseling increases fruit and vegetable intake in the edentulous. J Dent Res. 2006. 85, 463-468.
  19. 菊谷武, 米山武義, 手嶋登志子 他, 口腔機能訓練と食支援が高齢者の栄養改善に与える効果, 老年歯科医学, 2005, 20, 110-115.
  20. S uzuki H, Kanazawa M, Komagamine Y et al., The effect of new complete denture fabrication and simplified dietary advice on nutrient intake and masticatory function of edentulous elderly: A randomized-controlled trial. Clin Nutr. 2018, 37 : 1441-1447.
  21. 公益社団法人日本栄養士会, 栄養ケア・ステーション, (2019年4月10日取得)(外部サイト)(新しいウィンドウが開きます)

筆者

筆者_本川佳子先生
本川 佳子(もとかわ けいこ)
東京都健康長寿医療センター研究所
自立促進と精神保健研究チーム研究員
略歴:
2011年:東京農業大学大学院修了、博士(食品栄養学)、急性期病院勤務を経て在宅栄養管理を行う。2015年:東京都健康長寿医療センター研究所非常勤研究員、2017年より現職
専門分野:
高齢者の栄養疫学

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.90(PDF:8.3MB)(新しいウィンドウが開きます)

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