健康長寿ネット

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高齢者の定義を再考する

公開日:2017年2月 6日 09時00分
更新日:2024年8月14日 13時09分

荒井 秀典(あらいひでのり)
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター副院長
老年学・社会科学研究センター長

大塚 礼(おおつかれい)
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
老年学・社会科学研究センターNILS-LSA活用研究室室長

はじめに

 多くの先進国における高齢者の定義は65歳以上となっているが、この定義の医学的な根拠は乏しい。国連においても高齢者の定義付けはなされていないが、60歳以上を高齢者とすることも認められており、例えば中国やブラジルにおける高齢者の定義は60歳以上となっている。年齢には暦年齢と生物学的年齢があり、この2つの年齢は同じではないとされているが、高齢者の定義には暦年齢が使われている。

 一方、現在わが国においては、65~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と呼んでいるが、これもどのような根拠に基づいているかは不明である。前期高齢者の人びとは、活動的な人が多く、高齢者扱いをされることに対する違和感を覚える人も多い。実際、内閣府が最近行った国民アンケート調査でも、「何歳以上を高齢者とするか」という問いに、70歳以上、75歳以上とする回答が多く、80歳以上とする回答が5年前に比べ大幅に増加している。

 また、いろいろなコホートでの縦断調査のデータをみると、歩行速度、握力などの運動機能、活動能力指標でみた生活機能、疾病の受療率や死亡率、認知症に罹患していない人の知的機能など、多くの身体機能が以前に比べて5~10歳若返っていることが示されている。

 このような背景から、日本老年学会、日本老年医学会では、2013年に高齢者の定義を再検討する合同ワーキンググループ(WG)を立ち上げ、高齢者の定義についてさまざまな角度から検討を行ってきた。本稿では本WGで行った検討結果を示したい。

国民に対する意識調査の結果

 内閣府は国民の高齢者に関する意識調査を定期的に行っている。平成25年度に実施された内閣府による「高齢期に向けた備えに関する意識調査」における「一般的に高齢者だと思う年齢」の意識調査結果によると、「70歳以上」が42.3%で最も高く、次いで「65歳以上」(22.1%)、「75歳以上」(15.1%)、「60歳以上」(9.2%)、「80歳以上」(7.5%)などの順であった。一方、「年齢では判断できない」と回答した人の割合が2.4%であった。

 「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」における「支えられるべき高齢者の年齢」に関して、「60歳以上」、「65歳以上」と答えた割合の合計は10%未満であったが、「75歳以上」、「80歳以上」、「85歳以上」と答えた人の割合は合計すると53.2%であった。これに「70歳以上」とした回答者を加えると78.8%と8割近い結果となった。少なくとも「65歳以上」は支えられるべき区分ではなく、「70歳以上」または「75歳以上」がその区分と考えている人が多かったという結果である。

 これらをあわせて考えると、高齢者について「75歳以上」とする定義は高齢者自身にとってもやや年齢が高い印象で、「65歳以上」ではやや低い印象である。現在の高齢者の意識調査から「70歳以上」を高齢者と考えることは現在の日本における現状を反映しているといえる。同じ質問に関する回答の経年変化をみると、75歳以上との回答が増えつつあるのが明らかとなっている(表1)。

表1:内閣府による高齢者の年齢に関する意識調査(高齢社会白書、内閣府)
ほぼ5年ごとに行われている「高齢者の日常生活に関する意識調査」に「高齢者とは何歳以上か」という質問がある
Q.高齢者とは何歳以上か注:「-」は選択肢の設定なし
総数60歳以上65歳以上70歳以上75歳以上80歳以上85歳以上90歳以上これ以外の年齢年齢では判断できないわからない
平成24年 3,517 2.0 10.3 42.8 26.1 10.4 0.6 - 0.0 6.6 1.1
平成21年 3,501 2.1 10.8 42.3 27.4 10.8 0.7 - 0.1 4.5 1.3
平成16年 2,862 4.0 14.0 64.7 19.7 10.7 0.5 - 0.2 3.1 1.1
平成10年 2,284 3.8 18.3 48.3 14.7 9.7 0.7 0.2 0.1 2.9 1.1

 次に平成26年に行われた調査結果をまとめてみよう。平成25年の調査結果に比べて、75歳以上と回答した割合は変わらなかったものの、70歳以上と回答した人の割合が減り、80歳以上と回答した人の割合が増えたのは興味深い。

 また、「自分が高齢者と感じるのはどのような時か」という質問に関しては、「体力の変化」を挙げる人が58%と最も多かった。支えるべき高齢者の年齢についても前回同様70歳以上で約8割となった(表2)。

表2 高齢者に関する調査結果(平成26年度高齢社会白書、内閣府)
Q.あなたは一般的に何歳頃から高齢者だと思いますか
総数60歳以上65歳以上70歳以上75歳以上80歳以上85歳以上これ以外の年齢年齢では判断できないわからない無回答
3,893(人) 44 248 1,134 1,088 715 97 10 406 49 102
100.0(%) 1.1 6.4 29.1 27.9 18.4 2.5 0.3 10.4 1.3 2.6
Q.自分が高齢者だと感じるのはどのような時ですか。最もあてはまるものをこの中から1つだけお答えください
総数外見が変化したと感じた時体力が変化したと感じた時記憶力が変化したと感じた時社会とのつながりや役割が変化したと感じた時思考能力が変化したと感じた時性格・嗜好が変化したと感じた時周囲の人から高齢者として扱われた時その他わからない無回答
1,691(人) 110 980 314 41 56 8 98 17 26 41
100.0(%) 6.5 58.0 18.6 2.4 3.3 0.5 5.8 1.0 1.5 2.4
Q.あなたは一般的に支えられるべき高齢者とは何歳以上だと思いますか。この中から1つだけお答えください
総数60歳以上65歳以上70歳以上75歳以上80歳以上85歳以上これ以外の年齢年齢では判断できないわからない無回答
3,893(人) 23 183 704 912 982 205 11 774 49 50
100.0(%) 0.6 4.7 18.1 23.4 25.2 5.3 0.3 19.9 1.3 1.3

 表3には年代別の回答数および割合を示す。「自分が高齢者だと思うか」という質問に関しては、65歳頃より増えはじめ、70~74歳でほぼ半数となった。「高齢者とは何歳以上か」という質問に関しては、高齢になるほど高い年齢とする傾向がみられた。支えられるべき高齢者の年齢についても同様の傾向がみられた。

表3 年代別の回答結果(高齢者の定義)(平成26年度高齢社会白書、内閣府)
Q.高齢者とは何歳以上か【年齢別】(人数)
総数60歳以上65歳以上70歳以上75歳以上80歳以上85歳以上これ以外の年齢年齢では判断できないわからない無回答
総数 3,893 44 248 1,134 1,088 715 97 10 406 49 102
60~64歳 824 28 65 336 205 82 6 2 80 3 17
65~69歳 919 9 108 285 258 123 2 1 108 9 16
70~74歳 803 2 37 270 220 155 14 - 85 5 15
75~79歳 625 3 21 141 226 111 26 2 64 9 22
80~84歳 431 2 10 65 117 147 18 2 43 9 18
85歳以上 291 - 7 37 62 97 31 3 26 14 14
Q.高齢者とは何歳以上か【年齢別】(%)
総数60歳以上65歳以上70歳以上75歳以上80歳以上85歳以上これ以外の年齢年齢では判断できないわからない無回答
総数 3,893 1.1 6.4 29.1 27.9 18.4 2.5 0.3 10.4 1.3 2.6
60~64歳 824 3.4 7.9 40.8 24.9 10.0 0.7 0.2 9.7 0.4 2.1
65~69歳 919 1.0 11.8 31.0 28.1 13.4 0.2 0.1 11.8 1.0 1.7
70~74歳 803 0.2 4.6 33.6 27.4 19.3 1.7 - 10.6 0.6 1.9
75~79歳 625 0.5 3.4 22.6 36.2 17.8 4.2 0.3 10.2 1.4 3.5
80~84歳 431 0.5 2.3 15.1 27.1 34.1 4.2 0.5 10.0 2.1 4.2
85歳以上 291 - 2.4 12.7 21.3 33.3 10.7 1.0 8.9 4.8 4.8

身体機能の経時的データ

 国立長寿医療研究センターが行っている長期縦断コホート研究であるNILS-LSAにおいて、65歳以上の高齢者の通常歩行速度を1997年と2006年に測定し、比較したところ、図に示すように男性も女性も各年齢階層においてすべて2006年コホート群で歩行速度が速くなっていることがわかる。すなわち、歩行速度は健康の指標と考えられており、生命予後とも関係することから、この間、高齢者の健康度が上がっていることが示唆される。

 また、認知症のない高齢者における同様の研究でも、認知機能の改善があると報告されている。このような縦断研究における経年変化をみると20年前の高齢者に比べ、10年前の同世代の高齢者のほうが身体的にも認知的にも若返っていることが示唆される。

図:地域在住高年者(男性)の1997年と2006年の歩行速度比較を示す折れ線グラフ。2006年の60歳以上の全各年齢層の歩行速度は1997年にくらべ速くなっている。
図:(男性)地域在住高年者の歩行速度(1997年と2006年)
男性(人)60-64歳65-69歳70-74歳75-79歳
第1次調査 152 125 177 86
第5次調査 142 129 155 124
図:地域在住高年者(女性)の1997年と2006年の歩行速度比較を示す折れ線グラフ。2006年の60歳以上の全各年齢層の歩行速度は1997年にくらべ速くなっている。
図:(女性)地域在住高年者の歩行速度(1997年と2006年)
女性(人)60-64歳65-69歳70-74歳75-79歳
第1次調査 157 114 166 94
第5次調査 143 135 132 137

NILS-LSA:国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究 (National Institute for Longevity Sciences-Longitudinal Study of Aging) 第1次調査(1997-2000)と第5次調査(2006-2008)の年齢群別(60-64歳・65-69歳・70-74歳・75-79歳)普通歩行速度平均値

おわりに

 サザエさんに登場する"波平さん"の年齢は55歳という設定である。すなわち、戦後間もない頃の55歳のイメージはあのような感じであったといえる。現在の55歳の人びとは、少なくとも波平さんのイメージよりは若々しくなっているように思われる。

 本稿で示したように、外見のみならず、人びとの意識、そして身体的、認知的な能力もまた若返っていることが示唆されている。もちろん、医学的、社会的な評価だけで高齢者の定義ができるとは思わないが、これからも続く社会の高齢化を見据えた場合、このような科学的な分析結果をもとに高齢者の定義を見直すということに関する国民的議論を広める時期かもしれない。

筆者

写真:荒井 秀典(あらいひでのり)

荒井 秀典(あらい ひでのり)
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター副院長 老年学・社会科学研究センター長

【略歴】 1991年:京都大学医学部大学院医学研究科博士課程修了、京都大学医学部老年科助手、 1993年:カリフォルニア大学サンフランシスコ校ポストドクトラルフェロー、1997年: 京都大学医学部老年内科助手、2003年:京都大学大学院医学研究科加齢医学講師、 2009年:同人間健康科学系専攻教授、2015 年より現職。2002~2004年:文部科 学省研究振興局学術調査官

【専門分野】老年医学。医学博士

大塚 礼(おおつか れい)
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センターNILS-LSA活用研究室室長

【略歴】 東京水産大学(現・東京海洋大学)卒業、2007年:名古屋大学大学院医学系研究科修了、 2009年:国立長寿医療センター疫学研究部栄養疫学研究室室長、2013年より現職

【専門分野】栄養疫学、公衆衛生学。医学博士

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.80

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