健康長寿ネット

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最新研究情報(機関誌Aging&Health No.79 2016秋号より)

公開日:2016年11月 2日 17時27分
更新日:2019年2月 1日 22時18分

ADMAはサルコペニアのバイオマーカーにもなりうる?

 血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の内因性阻害物質ADMA(asymmetric dimethylarginine)は、血管内皮機能のバイオマーカーである。本研究では血清ADMA値と筋力(握力、大腿四頭筋力)ならびに歩行速度との関連を、550名の高齢者(平均年齢71歳)を対象に検討した。重回帰分析の結果、年齢、性別、体重など他の重要な交絡因子とは独立して、血清ADMAは筋力・歩行速度と有意な負の相関を示した(Obayashi K et al. J Bone Miner Res 31. 1107-1113,2016)。

カルシウムの経口摂取のみでは骨折抑制効果は期待できない?

 骨折予防のため、食事からのカルシウム摂取を増加させることが望ましいとされている。しかしながら2014年9月までのランダム化比較試験と観察研究を対象にメタ解析した結果、食事からのカルシウム摂取と骨折リスクとの関連性は認められず、サプリメントが骨折を抑制する証拠も弱く一貫性がなかった。カルシウムは骨粗鬆症薬の効果を高める基礎栄養素と位置付けられているが、単独での骨折予防効果は期待できないと考えられる(Bolland MJ et al. BMJ 351. h4580, 2015)。

補体とミクログリアがアルツハイマー病のシナプス消失を招く

 近年、補体がシナプスの剪定を行うことや、そのシステムが統合失調症の発症に寄与する可能性が明らかにされてきた。今回ハーバード大Stevensのグループは、アルツハイマー病モデルマウスを用い、オリゴマー化したAβが補体C1qを活性化し、シナプスに補体成分やミクログリアを集積させ、その結果シナプスが除去されることを示した。補体やそれに伴うグリアの活性化がアルツハイマー病の新たな治療標的となる可能性を示唆している(Hong S et al. Science 352. 712-716,2016)。

動物性タンパク質摂取は高齢期の筋力維持に寄与

 本研究はフラミンガム子孫コホートの男女を対象とし、普段のタンパク質摂取量と6年間の握力の変化との関係を調べた。60歳以上(n=646)では、総タンパク質および動物性タンパク質の摂取量と握力の変化量との間に有意な相関関係を認めたが、60歳未満(n=896)では認められなかった。動物性タンパク質の摂取量を増やすことは筋力を維持し高齢期の移動能力制限の予防に寄与するかもしれない。ただ栄養摂取状況は国内外の差が大きいため、日本人における検証が必要である(McLean RR et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 71. 356-361, 2016)。

ビタミンD、ロイシン強化の乳清タンパク質の摂取がサルコペニア改善に有効

 サルコペニアを呈する在宅自立高齢者を対象とした無作為化二重盲検並行群間比較試験で、ビタミンDおよびロイシンを強化した乳清タンパク質を13週間経口摂取することにより、四肢筋肉量の増加と下肢機能の改善がもたらされることを証明した。サルコペニアの改善にはレジスタンス運動と栄養補充の組み合わせが有効であるが、特別な栄養補充のみでも効果が得られるとする本研究成果は、特に運動が実施できない高齢者にとって有益であろう(Bauer JM et al. JAMDA 16.740-747, 2015)。

VRゲームを用いたリハビリテーションでは難易度が集中の鍵となる

 重心計を使った市販のテレビゲーム(Nintendo Wii)を用いたリハビリテーションにおいて、難易度のレベルが訓練への集中に影響することが示された。25名の膝関節手術後の患者に同訓練を行い、フロー体験スケールによる評価を行ったところ、高い集中度が示された。また、集中して訓練を行うためには、痛みや障害の度合いに合わせて、適切なゲームの難易度を設定することが重要であることの結果が得られた(Lee M et al. JRRD 53(2).239-252, 2016)。

人類はなぜ長生きなのか?:「おばあさん仮説」の分子背景

 たいがいの生物は生殖能力がなくなると死滅する。だが、人間は例外だ。およそ50歳での閉経後も余生は長い。この例外的な人間の「余生」の理由について、いわゆる「おばあさん仮説」というのがある。娘や孫の世話をすることが、人間という生物種の寿命の進化に寄与したというものだ。これに関連して、最近、米国サンディエゴの研究者が、免疫系分子CD33の人間だけにみられる変異(アレル)が高齢期の脳の認知障害を抑制する、つまり保護的に働くことが長寿化につながったのではないかと主張している。CD33は老化脳での発現が高く、またアルツハイマー病でも変化する。抗炎症のミクログリアで高発現する。人類特有のこのCD33のアレルの出現は10万年以上前のアフリカでのことと推察している。古代人の寿命はそれほど長くはないが、古くから人類寿命の進化の素地は整えられていたということなのだろう(Schwarz F et al. PNAS 113. 74-79, 2016)。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.79

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