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高齢者の排尿障害と対策

公開日:2018年5月 2日 10時00分
更新日:2022年8月25日 12時47分

高齢者の排尿障害とは

 高齢者の排尿障害は、生活の質(クオリティオブライフ:QOL)を低下させる問題です。排尿の問題は40歳代から生じてくるといわれているものの、後期高齢者ともなると、排尿障害を抱える人は一気に増えてきます。高齢者もトイレ問題は「年のせいだ」と、あきらめてしまっていることが多いのが特徴です。

 排尿障害は、蓄尿障害と排出障害に分類できます(図1)。

図1:排尿障害と排出障害の違いを示す図。
図1:蓄尿障害と排出障害の違い

 蓄尿障害とは、文字通り「ためておくことができなくなる」障害です。これは、膀胱排尿筋の過活動や、膀胱出口の抵抗が弱くなる、尿道閉鎖圧が低下するといったことが原因となり、尿失禁や頻尿が生じます。

 一方の排出障害は、「出すことができなくなる」障害です。これは、膀胱排尿筋の収縮力低下や、膀胱出口の抵抗が大きくなることなどにより、排尿困難に陥るものです。

 高齢者では、蓄尿障害と排出障害が同時に生じる場合が多くなります。

 蓄尿障害の主な症状は尿失禁であり、日本の高齢者のうち約400万人が抱える症状です。また、尿失禁を自覚している高齢者は、女性が男性の倍以上となり、高齢女性にとって深刻な問題となっていることがうかがえます。

写真:トイレと時計の写真。尿失禁が高齢者にとって深刻な問題となっていることを表している。

尿失禁の種類

 尿失禁には以下のような種類があります。

切迫性尿失禁

 急激に尿意の切迫感が生じ、がまんできずに漏れてしまうこと。畜尿時に膀胱が勝手に収縮してしまうために起こり、頻尿を伴うことも多い。

腹圧性尿失禁

 尿道の抵抗が低下しているため、重いものを持ち上げたり、くしゃみや咳などで腹圧が上昇して尿道閉鎖圧を超えてしまうことで起こります。

混合型尿失禁

 切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の混合型の尿失禁のこと。

機能性尿失禁

 上記のような下部尿路機能障害がないにもかかわらず、生じる、尿失禁のこと。

溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)

 排尿後であっても膀胱内に多量な残尿があり、尿が溢れ出て常に少量漏らしてしまうこと。

排出障害の症状

 排出障害には大きく2つの症状、残尿感(ざんにょうかん:排尿後、膀胱内に尿が残っている感じ)と、排尿後尿滴下(はいにょうごにょうてきか:排尿直後に不随意に尿が出てくる)がみられます。これらは、2つのタイプの排出障害によりみられる症状です。

膀胱収縮障害

 膀胱がきちんと収縮しないため、尿を排出できないこと。

尿路通過障害

 何らかの原因により尿路が狭くなり、尿が排出できないこと。

高齢者の排尿障害の原因

 排尿障害の2つのタイプについて、それぞれの原因を見ていきましょう。

蓄尿障害

 蓄尿障害の場合にはさらに、尿失禁のタイプによって原因が異なります(表1)。

表1:蓄尿障害による尿失禁のタイプと原因
尿失禁のタイプ原因
切迫性尿失禁 過活動膀胱や、脳血管障害・脊髄障害後遺症による神経因性膀胱、膀胱炎や尿路感染、前立腺炎による膀胱知覚亢進
腹圧性尿失禁 内因性括約筋不全、前立腺手術などによる尿道括約筋の障害や便秘、肥満などによる骨盤底筋群の弛緩
機能性尿失禁 脳血管障害や整形外科疾患などによるADLの低下や知能精神障害や認知症など
溢流性尿失禁 前立腺肥大症、直腸がんや子宮がんの術後に膀胱周囲の神経機能が低下
混合型尿失禁 切迫性と腹圧性の原因に準ずる

排出障害

 排出障害は大きく分けて、膀胱収縮障害(低活動膀胱)、尿道通過障害があります(表2)。

表2:排出障害のタイプと原因
障害のタイプ原因
膀胱収縮障害 糖尿病性末梢神経障害、椎間板ヘルニア、腰部脊椎管狭窄症、骨盤内臓器手術(直腸癌、子宮癌)など
尿道通過障害 前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄、膀胱頸部硬化症など

 中でも前立腺肥大症は、高齢男性の尿排出障害でもっとも頻度の高い原因疾患です。

 また、高齢者はさまざまな病気を抱えていることによって、その病気に対する複数のお薬を内服している場合があります。それらの中には排尿に影響するものもあり、薬が原因となっていることもあります。

高齢者の排尿障害の治療

 排尿障害の治療法には、生活習慣の是正、行動療法、薬物療法、手術療法があります。

生活習慣の是正

 まず気を付けたいのが、便秘の改善です。直腸内に便が残り続けると、尿失禁や排尿困難の原因となるため、生活習慣を見直し、便秘解消のためのコントロールを行います。

行動療法

 行動療法の多くは、蓄尿障害に対して行われます。具体的には、膀胱訓練と骨盤底筋体操があります。

膀胱訓練

 排尿時間をあらかじめ設定し、その時間に排尿をしに行く習慣をつけ、その間隔を少しずつ長くしていきます。

骨盤底筋体操

 肛門や膣をさまざまな体勢で締めることで、尿道括約筋を「しめる」トレーニングのことです。深呼吸しながら、骨盤底筋をゆっくりと強く締めて5秒間保持することを繰り返します(図2)。これを1日に50回から100回ほど繰り返し、毎日継続して行います。高年女性では特に、肛門や膣の締まる感じが分かりにくくなっていることがあるので、骨盤底筋運動により「しめる」トレーニングをすることが重要です。

図2:骨盤底筋体操を示すイラスト。骨盤庭筋をゆっくりと強く締めて5秒間保持することを表している
図2:骨盤底筋体操

薬物療法

 過活動膀胱や前立腺肥大症に対しては、薬剤を使用して排尿障害を改善させます。また、下剤を使用して便秘を解消することも、排尿障害の改善につながるとされています。

手術療法

 高齢者の場合、合併症のリスクなどを考慮し、医師が慎重に診察した後に、治療法として選択されることが多くなります。

高齢者の排尿障害の対策

 高齢者の排尿障害への対策を検討するためには、まず排尿障害のタイプを知ることから始めます。尿失禁1つとってもさまざまなタイプがありますので、まずはかかりつけの担当医師に相談し、自分の排尿障害のパターンを知ってから、対策を取りましょう。

参考文献

  1. 一般内科医のための高齢者排尿障害 診療マニュアル 国立長寿医療センター泌尿器科(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 高齢者の排尿・排便障害 須藤 紀子 日老医誌 2012;49:582-585(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 高齢者の排尿障害への対応 愛知県(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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