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第4回 ツルは千年?

公開日:2021年1月29日 09時00分
更新日:2022年12月 2日 11時02分

上田 恵介
公益財団法人日本野鳥の会会長、立教大学名誉教授


 「鶴は千年、亀は万年」ということわざがある。私も「ツルは本当に長生きなんですか?」という質問をされることがよくある。まさかツルが千年も生きると本気で信じている人はいないだろうが、なんとなく長生きなんじゃないかと思われて、長寿のシンボルとされているのがツルである。

 日本でツルといえばタンチョウ。タンチョウ(丹頂)の丹(たん)は酸化水銀の朱色のこと。頭のてっぺん(頂)が赤いので、丹頂という名がつけられた。その清楚な姿は、古くから絵画にも描かれ、縁起のいい鳥として人々に親しまれてきた。江戸時代までは全国各地に生息していたらしいが、現在は北海道の釧路湿原や道東地域に少数が生息しているだけである。

 タンチョウは何年くらい生きるのだろう。動物園で飼育されていた記録では40年ちょっと、野生では平均して25年くらいと言われている。タンチョウ以外のツルで寿命の正確な記録が残っているソデグロヅルでは、61年生きた例があるので、タンチョウも条件次第では60年くらいは生きると思われる。

 日本は「人生100年時代」に突入したと言われているが、ツル以外の鳥ではどうだろうか。これまでに世界の鳥で寿命の記録が残っている例では、長寿第一位はヤシオウムの90年、二位はフラミンゴの83年、第三位がモモイロペリカンとワシミミズクで68年である。一般に大型の鳥は寿命が長い。オウムの仲間のキバタンが120年生きたという非公式の記録があるので、もしかすると大型のオウムやインコの中には、百年以上生きるものが出てくるかもしれない。

 野外の鳥については、寿命を調べることはなかなかむずかしい。だが海鳥たちは、毎年、同じ繁殖地に戻ってくることから、寿命に関する正確なデータが残されている種類もある。その一つがアホウドリ類である。鳥島のアホウドリでは、ヒナの時に足輪をつけられ、30歳を超えた今も元気に子育てしている個体がいて、現在も記録を更新中である。

 アホウドリ類は全般に長生きである。最高齢の記録はミッドウェイ諸島で繁殖しているコアホウドリで、現在69歳の個体がいることが知られている。ウィズダム(知恵)と名づけられたこのコアホウドリの存在が初めて確認されたのは2002年のことである。ミッドウェイ諸島では、半世紀以上にわたって、アメリカの研究者によって海鳥に金属製の足輪をつける研究が行われているが、2002年に摩耗した足輪の交換が行われたとき、この個体が最初に足輪をつけられたのは1956年であることがわかった。アホウドリ類は少なくとも四歳にならないと繁殖できないことから、この時点でウィズダムはコアホウドリとしては最高齢の52歳と推定された。

 彼女はそれ以後も毎年、繁殖地に戻ってきて繁殖を繰り返し、昨年11月にも、またミッドウェイに戻ってきて、繁殖活動に入っている。ということはウィズダムはすでに69歳、寿命に関する記録が残された野生の鳥としては世界最高齢である。しかも繁殖活動をしているというのだからすごい。彼女はあとどれくらい記録を伸ばすのだろうか。

写真:長寿のシンボルとされているツルのタンチョウの写真。
タンチョウ

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.96(PDF:5.6MB)(新しいウィンドウが開きます)

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