第3回 ココナッツオイルとカカオで認知症の予防・改善
公開日:2018年8月 7日 10時45分
更新日:2019年2月 1日 21時06分
白澤 卓二
白澤抗加齢医学研究所所長
ココナッツオイルでアルツハイマー病が劇的に改善
アルツハイマー病はいまだに原因不明で進行性の神経変性疾患で最終的には寝たきりになる病気であるが、人口の高齢化とともに患者数が激増し、日本でもアメリカでも大きな社会問題となっている。
アルツハイマー病を発症すると認知機能の低下に伴い、もの忘れがひどくなり、性格が変容し、行動異常が起きるので、介護に携わる家族には大変な負担になる。人口の高齢化に伴い、アルツハイマー病の問題は、本人の問題にとどまらずに家族や社会にとって大きな負担となっている。しかし、これまでのところ有効な治療薬は開発されていない。一般に処方される薬はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤で、症状を緩和させることはできるが、病気の進行をくい止めることはできない。
2013年に、『アルツハイマー病が劇的に改善した!米国医師が見つけたココナツオイル驚異の効能』(ソフトバンククリエイティブ刊)という翻訳本を監修した。
本書の著者であるメアリー・T・ニューポート医師はオハイオ州出身の小児科医だったが、愛する夫スティーブが若年型のアルツハイマー病を発症し、病気が進行する夫を辛抱強く介護する中であらゆる治療の可能性を模索する。新薬の臨床試験にスティーブを参加させようと模索するが、病期が進行しすぎているスティーブは臨床試験の除外基準のために試験に参加できない。
そんな中、AC-1202という中鎖トリグリセリドの臨床試験を偶然にみつけることになる。この中鎖脂肪酸は食品として商品化されていることを突き止めたメアリーは、さらにこの中鎖脂肪酸がココナッツやパームオイルから抽出されることを突き止める。
さっそく、ココナッツオイルをオートミールに加え夫スティーブに食べさせたところ、その日のうちに劇的な症状の改善が観察された。それ以来、ココナッツオイルを3年にわたり愛する夫スティーブに食べさせ続け、アルツハイマー病の症状を改善させ、病期の進行をくいとどめることに成功した。
アルツハイマー病は、最近では3型糖尿病とも呼ばれている。アルツハイマー病の脳では、インスリンの効きが極端に悪くなっているためである。インスリンの効きが悪くなると、神経細胞はグルコースが使えなくなり、神経変性を起こして記憶障害などの神経症状を悪化させると考えられる。
しかし、神経細胞はグルコース以外にケトン体という脂肪酸の代謝産物をエネルギー源として利用することが可能なのである。アルツハイマー病を発症していったんグルコースが使えない状態に陥っても、ケトン体が供給され続ければ、神経細胞はエネルギーを産生し続けて、その活性を保つことができる。メアリーはこの食事療法の発見により、夫スティーブの治療効果を安定させることに成功したのである。
ニューポート医師の著書は、これまで病気の進行を止める薬がなかったアルツハイマー病を患っている数多くの患者とその家族に希望の光を与えるかもしれない。治療に使ったココナッツオイルは自然食であり、一般に市販されている食品である点が、これまでのアルツハイマー病の治療戦略と異なる。ココナッツオイル療法は実践しやすく、しかも劇的に症状が改善する人は数日でその効果が確認されている。
治療効果の本体と考えられるケトン体はグルコースに代わる優れた脳のエネルギー源で、これまでケトン体ダイエットやアトキンスダイエット(低糖質ダイエット)などで注目されてきたエネルギー源であり、認知症の家族を抱え日々の介護に悩んでいる家族に大きな福音をもたらす可能性を秘めている。
カカオに認知機能維持の秘密
人口の高齢化に伴い認知症が急増している。誰もが、いつ発症しても不思議ではない病気で、「もし、自分がなったら」と考えたことのある人も多いことだろう。
厚生労働省の報告によれば、2012年時点の認知症患者は、軽度者を含め約462万人に上る。予備軍とされる「軽度認知障害」の約400万人を加えれば、65歳以上の4人に1人が該当する計算だ。
認知症の中でもアルツハイマー病は原因不明の神経変性疾患で治療法が確立されていない。最後は寝たきりで介護が必要になるので、大きな社会問題になっている。
ココナッツオイルが認知症の症状を改善させる効果があることを本コラムでも紹介したが、アルツハイマー病を予防する食材が注目されている。そんな中、カカオ豆から抽出したココアにアルツハイマー病を予防する効果があることがネズミを用いた実験で証明され、話題を呼んでいる。
米国ニューヨーク市のマウントサイナイ医科大学アイカーン医学部のジュリオ・マリア・パシネッティ教授はカカオ豆にポリフェノールが豊富に含まれることに注目した。ラバードという製法でカカオ豆を精製して得られるココアパウダーは、プロシアニジンというポリフェノールが豊富に含まれ強力な抗酸化能を示す。
アルツハイマー病ではアミロイドβタンパク質が異常蓄積しシナプス機能を障害することにより記憶力が低下することが知られているが、博士がネズミの脳のスライス標本にココアパウダーを添加すると、シナプス障害が緩和されることがわかった。実際、ココアパウダーには試験管の中でアミロイドβタンパク質の異常凝集を抑制する効果が認められた。
世界で最も長生きしたフランス人、カルマンさんも122歳まで認知機能が保たれていたが、カルマンさんの好物だったチョコレートに認知機能維持の秘密があったのかもしれない。
筆者
- 白澤 卓二(しらさわ たくじ)
白澤抗加齢医学研究所所長 - 1958年生まれ。1990年、千葉大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。東京都老人総合研究所を経て、2007年~15年、順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。米国ミシガン大学医学部神経学客員教授、獨協医科大学医学部生理学(生体情報)講座特任教授、白澤抗加齢医学研究所所長。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学、アルツハイマー病の分子生物学、アスリートの遺伝子研究。
著書
『腸を元気にしたいなら発酵食を食べなさい』『100歳までボケない101の方法』など200冊を超える。
転載元
公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.83