障害の受容過程
公開日:2016年7月25日 10時00分
更新日:2019年5月29日 11時33分
障害者の受容過程における心理は、障害による人間としての価値の喪失から、価値の発見に至る心理反応の一部です。
人は誰でも生きていく過程で不測のストレスに遭遇します。たとえば、家族の病気や死、親しい人との離別、受験や事業の失敗などがこれにあたります。これらの不幸で痛ましい事態に対する人の心理反応と同じように、障害を受容する過程も同じような健康な心理反応であることを認識する必要があります。
障害の否認
人は、障害が残ることになった時、まず衝撃に対して心理的に緩衝しようとして、障害の否認を行います。
この時期では、リハビリテーションの中でも、麻痺そのものを回復させる訓練に対しては患者自身積極的に行うが、車椅子を使うことや利き手交換に対する訓練つまり機能を代償する訓練に拒否的となることがあります。
医療スタッフおよび介護者は、この時期に現実を直視させるような説得はあまり効果がなく、むしろ"障害を否認していたい"という願望を尊重する、自己防衛の継続が許されることを支持するような対応が必要です。
また障害者の家族にも精神的に落ち込んでいるこの時期に、面会が少なくなる可能性があり、見逃すと障害者がこの時期を脱するのに難渋する場合があり、家族に障害者とコミュニケーションをとるように勧める必要があります。
周囲の人や自分自身に対する怒り
障害者は、障害の否認という段階が維持できなくなると、怒り、憤りまたは恨みを周囲の人や自分自身のなどあらゆる方向に向けることになります。
周囲の人にとっては、非常に対応が困難な時期に至ります。周囲の人たちが障害者の立場に立って、理解し、共感していけば怒りの発散も可能であるが、怒りの対象はあらゆる方向に向けられるために、本当は怒りの対象になっている人にはあまり責任がないにも関わらず、個人的で感情的な対応が引き起こされ、怒りの深刻化する可能性があります。
この時期の対応は、難しいものの、まず障害者の立場にたって共感、理解の感情を示すことです。そして、怒りをむやみに発散させないためにも、周囲の人たちは障害者の言動に引きずられることなく、冷静に対応し、種々の対応における決定権を可能な限り障害者自身に委ねることが必要です。
障害の自覚を延期するための逃避反応
障害者は、怒りの段階から、次に障害と正面から立ち向かうことを延期するための一時的な逃避反応として取引を行うようになります。
取引とは、障害の自覚を少しでも延期するために、一般的には良心的なこと、しかし現実にはほとんど意味のない約束を行うことです。対応としては、この約束があまり現実的でないからといって、無下に無視をしてはいけない、かといってこの約束に振り回されないようにしなければなりません。人間的価値の再発見を促していかなければなりません。
取引の段階で自分の罪悪感が顕在化すると、障害者は強い喪失感を感じ、抑うつ状態が引き起こされます。
この抑うつ状態も対応が難しいが、周囲の人の積極的な関わりが必要で、まず気分を引き立てるように励ましたり、具体的に車椅子などを作製したりして、外出を促したり、脊髄損傷患者では、自動車を障害者用に改造して車椅子が必要なものでも、自動車での社会参加が可能であることを示します。ただ過度の干渉を嫌う場合は、周囲の人がただ黙ってそばにいることも重要です。
障害の受容
障害者が訓練を行っていく中で、家族の支えや同じ障害を持った人との交流により、情緒が安定し、目標に向けて前向きに努力をするようになります。そして自分自身の障害の存在を認め、障害に対して積極的に受け入れ、あるがままの自分を容認する段階になります。この段階で障害の受容にいたります。