慢性甲状腺炎
公開日:2017年6月30日 13時44分
更新日:2019年6月13日 10時13分
慢性甲状腺炎とは
慢性甲状腺炎とは、橋本病とも呼ばれる自己免疫疾患の一つで、慢性関節リウマチなどの膠原病と親戚関係に当たる病気です。
血液中に甲状腺に対する自己抗体が存在するため、甲状腺が正常に機能できなくなり、新陳代謝を司る甲状腺ホルモンの分泌が損なわれ、様々な症状が出てきます。一般に、自己免疫疾患は女性に多いものが大部分ですが、慢性甲状腺炎も女性に多い病気です。
甲状腺に対する自己抗体の陽性率は女性では10%程度と非常によく見られる異常ですが、大部分は無症状で、甲状腺機能低下症を呈して治療が必要なのは、一部の方のみです。
また、一時的な甲状腺機能亢進状態(こうしん:感情、脈はく、病状などがたかぶり進むこと)を示すこともあります。一部の方に家族性が見られます。
慢性甲状腺炎の原因
抗原抗体反応は、細菌や異種蛋白質など、有害なものから体を守るために不可欠な仕組みです。
本来、自分の体や臓器などに対する抗体は作られないのですが(これを免疫寛容といいます)、何らかの理由でこの免疫寛容が破綻し、甲状腺に対する自己抗体(抗甲状腺抗体)が作られるようになると、甲状腺が正常に機能しなくなることがあります。慢性甲状腺炎は、甲状腺の機能低下を招く自己抗体が生じた状態です。
なお、甲状腺機能亢進症の最も多い原因であるバセドウ氏病(グレーブス病)は甲状腺の働きを刺激する抗体ができるものなので、病気の状態としては正反対ですが、原因は非常によく似ています。
慢性甲状腺炎の症状
慢性甲状腺炎の症状は、前頚部が腫れてきた、寒さに弱くなった、無気力でゆううつになった、体重が増えてむくんできた、眉毛が薄くなったなど、甲状腺の腫れとその機能低下による症状が見られます。
これらは徐々に起こってくる上、その感じ方に個人差があるため、血液中のコレステロールの異常高値で気づかれる場合も少なくありません。特に高齢者では、認知症が初発症状である場合があります。
また、脱力感が特に強い場合は、筋肉の損傷を示す血液中のCPKが異常高値をとることがあります。
慢性甲状腺炎の診断
慢性甲状腺炎の診断は、採血を行って、抗甲状腺抗体の存在を調べます。血液凝集反応を利用したマイクロゾームテストとサイロイドテストは以前から広く用いられています。抗TPO抗体は特異性が高い上、測定法の感度・信頼度が高く優れた検査法です。これらの抗体が陽性の場合、慢性甲状腺炎と診断されます。
甲状腺機能については、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値とともに遊離T3、遊離T4を測定します。TSHの高値および甲状腺ホルモンの低値が認められると治療が必要と考えられます。
画像診断法としては、超音波検査とシンチグラフィーの結果を参考にします。
慢性甲状腺炎の治療
慢性甲状腺炎の治療は、慢性甲状腺炎と診断されたからといって、すべてに治療が必要なわけではなく、経過観察のみでよい場合も多く見られます。
TSHが10 mIU/l以上かつ甲状腺ホルモンの値が低く、コレステロールが高い場合や認知症などの問題が見られる場合に甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン:商品名チラージンS)の投与を開始します。じっくりと時間をかけて慎重に投与量を増やしていきます。