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全国へ広がる富山型デイサービス

公開日:2019年1月25日 11時00分
更新日:2024年8月14日 11時50分

富山県厚生部厚生企画課(とやまけんこうせいぶこうせいきかくか)


富山型デイサービスとは

 年齢や障害の有無などにかかわらず、誰もが住み慣れた地域でデイサービスを受けられる場所が「富山型デイサービス」である。

 平成5年7月、惣万(そうまん)佳代子氏ら3人の看護師が「家庭的な雰囲気のもとで、ケアを必要とする人たちに在宅サービスを提供したい」という思いから、県内初の民間デイサービス事業所「このゆびとーまれ」を開設した。

 開設前は高齢者向けデイサービスを想定していたが、開設初日の利用者は障害児だった。病院で看護師として働いていた惣万氏らにとっては、障害児者であってもケアするということは当然のことであった。以降、「誰も排除しない」の理念のもと、高齢者、障害者、子どもなど、誰もが利用できるデイサービス事業所として運営されている。

 従来の福祉サービスは、高齢者は高齢者介護施設、障害者は障害者施設、児童は保育所と、対象者を限定した縦割りの福祉サービスであった。特に障害者の場合は、さらに身体、知的、精神の種別や程度によっても区別され、住宅地から離れたところにある施設に入所して集団的ケアを受けることが多かった。

 一方、富山型デイサービスは、「1.小規模・2.多機能・3.地域密着」をコンセプトとしており、1.利用定員は10〜20人程度で、家庭的な雰囲気、2.障害者・子どもを含め、誰でも受け入れ対応、3.身近な住宅地に立地し、地域との交流が多い──といった特徴が挙げられる。

 事業所は住宅街に立地し、後述の補助金を活用した民家改修によって整備した事例も多くあり、「第二のわが家」として、あるいは近所の家に遊びに行く感覚で、「暮らしの場」を提供している(写真)。

  • 中心となる富山型デイサービスの運営法人が就労継続支援B型事業所の指定を受け、他の複数の事業所を「施設外就労先」としてグループ化
  • 各事業所が障害者を受け入れ、グループ全体で20人程度を確保
写真:年齢や障害の有無などにかかわらず、誰もが住み慣れた地域でデイサービスを受けられる場所「富山型デイサービス」での風景を表す写真。左端が開設者である惣万佳代子氏。
写真:富山型デイの風景(左端が惣万佳代子氏)

富山型デイサービスの効用

 さまざまな人たちがひとつの場で過ごすことが特徴である富山型デイサービスの効用として、

  • <高齢者にとって> 子どもと触れ合うことで、日常生活の改善や会話が促進する
  • <障害者にとって> 居場所ができることで、自分の役割を見出し、自立へとつながる
  • <子どもにとって> 他人への思いやりや優しさが身につく

といったことが挙げられる。

富山型デイサービスの現状

 平成5年に初めての富山型デイサービスである「このゆびとーまれ」が開設され、県内での富山型デイサービスの事業所数は、10年後の平成15年度時点では27か所だったが、さらに10年後の平成25年度時点では105か所、直近の平成29年度時点では128か所が運営されている(図1)。

図1:富山型デイサービスとして初めて「このゆびとーまれ」を開設した平成5年から平成29年度時点の富山県と全国での事業所数の推移を表す図。富山県では、平成15年度時点で27か所、平成25年度では105か所、平成29年度では128か所となっている。
図1:事業所数の推移

 富山県で富山型デイサービスの整備が進んでいる理由としては、1.富山型デイサービス発祥の地であり、惣万氏らの先達に影響を受け、「自分も富山型デイをやりたい」と考える人が多かった、2.富山県は三世代同居率が高く、県民の共生へ意識が高い、3.行政が富山型デイサービスの整備への支援を行っている──などが考えられる。

 また、富山県では「富山型デイサービスのような、高齢者、障害者、子どもがともに利用でき、身近な地域で必要な福祉・コミュニティのための機能をコンパクトに1つの場所で担う施設」を「共生型福祉施設」と定義して、毎年度、各都道府県に対して調査を実施し、その数を集計している。

 平成15年度には全国で205か所だった共生型福祉施設が、平成29年度時点では2,138か所と、15年足らずで10倍に増加している。

 この結果から、対象者を限定した縦割り福祉ではなく、誰もが地域でともに暮らす地域共生への関心が年々高まっていることがうかがえる。

行政の支援

 「このゆびとーまれ」の開設当初は、「対象者を限定していない」という点が問題になり、行政から補助金が交付されなかった。

 補助金を受けるために対象者を限定することはせず、公的な制度を利用しない「自主事業」として事業を開始し、初めの1年間の1日平均利用者は1.8人だったが、3年後には十数人へと増えていった。

 利用者が増えるにつれ、県などにも民間デイサービスを支援する声が届くようになり、これらの声を行政も無視できなくなった。

 平成8年度から「在宅障害児(者)デイケア事業」、平成9年度からは「富山県民間デイサービス育成事業」として、高齢者および障害児者を受け入れた事業所に対して補助金を交付し事業を支援した。

 このころ、年齢や障害の有無などにかかわらず、誰も排除せずに柔軟に受け入れるデイサービスと、行政の縦割りを超えた横断的な補助金の交付を併せて「富山型デイサービス」と呼ばれるようになった。

 平成12年度に介護保険制度が開始されてからは、施設整備支援補助金や、職員研修、起業家育成講座など、形を変えて支援を行っている(表)。

表:県の支援内容(ハード・ソフト)

ハード
  • 住宅活用施設整備(県1/3、市町村1/3)
    1. 住宅等改修 1か所600万円
    2. 機能向上(改修)1か所600万円
    3. 機能向上(除雪機、AED等)1か所60万円
平成24年より、富山型デイの普及促進のため、高齢者のデイサービス等から富山型デイへの転換のための改修についても対象に
  • 施設整備(新築)(県1/3、市町村1/3)
    • 1か所1,200万円
  • 福祉車両の設置
    • 1台50万円
ソフト
  • 職員研修
  • 起業家育成講座
  • 共生地域福祉フォーラム開催支援(各年開催)
  • 地域共生ホーム全国セミナー開催支援(各年開催)

特区制度の活用

 平成15年11月、「富山型デイサービス推進特区」の認定を受け、1.介護保険法による指定通所介護事業所における知的障害児者の受け入れ、2.身体障害者福祉法による指定デイサービス事業所及び知的障害者福祉法による指定デイサービス事業所での障害児の受け入れが可能になった。この取り組み(特例措置)は、高齢者と障害児者の垣根を低くし、身近な地域で区別なく福祉サービスを提供する「富山型デイサービス」の普及に弾みがついた(この特例措置は、平成18年10月から全国でも実施できるようになった)(図2)。

図2:平成15年11月「富山型デイサービス推進特区」認定を受けてから全国展開するまでの様子を表す図。高齢者と障害児者の垣根を低くし、身近な地域で区別なく福祉サービスを提供する「富山型デイサービス」の普及に弾みがつき、平成18年10月から全国でも実施できるようになった。
図2:富山型デイサービス推進特区(平成15年11月認定)の全国展開

 また、平成18年7月、「富山型福祉サービス推進特区」の認定を受け、介護保険の小規模多機能型居宅介護事業所における、障害児者の通所サービス(生活介護、自立訓練、児童デイサービス(当時))、宿泊サービス(短期入所)が可能となり、富山型デイサービス事業所の普及にさらに弾みがついた(この特例措置は、平成28年4月から全て全国でも実施できるようになった)(図3)。

図3:平成18年7月に富山型福祉サービス推進特区に認定されてから全国展開するまでの様子を表す図。認定を受け、介護保険の小規模多機能型居宅介護事業所における、生活介護、自立訓練、児童デイサービス、宿泊サービスの障害福祉サービスが可能となり、平成22年6月以降全国でも実施されるようになった。
図3:富山型福祉サービス推進特区(平成18年7月認定)の全国展開

 さらに、平成24年7月、「とやま地域共生型福祉推進特区」の認定を受け、障害者就労支援事業所における施設外就労の特例措置が認められた。この取り組みにより、小規模な富山型デイサービス事業所を福祉的就労の場とすることにより、住み慣れた地域で障害者の就労の場を確保することができるようになった(この特例措置は、平成30年4月から全て全国でも実施できるようになった)(図4)。

図4:平成24年7月にとやま地域共生型福祉推進特区の認定を受けてから全国展開するまでの様子を表す図。障害者就労支援事業所における施設外就労の特例措置が認められ、住み慣れた地域で障害者の就労の場を確保することができるようになった。この特例措置は、平成30年4月から全国でも実施できるようになった。
図4:とやま地域共生型福祉推進特区(平成24年7月認定)の全国展開

共生型サービスの開始

 共生型サービスが開始される以前の富山型デイサービスは、〔介護保険の指定事業所〕+〔障害福祉の基準該当事業所〕という組み合わせにより、1つの事業所で高齢者と障害児者の受け入れを行っていたが、基準該当事業所の問題点として、本来の指定事業所と比較して基本報酬が低いうえに、送迎加算をはじめとする障害福祉サービスの各種加算が算定できず、安定的な運営がむずかしいという課題があった。

※ 基準該当事業所:
本来の指定事業所に求められる人員配置基準や設備基準などを満たしていないが、基準を満たしているとみなし、市町村の登録を受けて実施する事業所。もとは離島や中山間地などの過疎地など、基準を満たすことが困難である事業所を想定されてできた制度だったが、富山型デイサービスのように、介護保険と障害福祉の一方の指定基準を満たしている場合、もう一方の指定基準を満たしているとみなして基準該当の登録を受けることにより、同一事業所において介護保険サービス・障害福祉サービスの両方を提供することができる。

 こうした課題を解決するため、これまで富山県では国に対し、富山型デイサービスが安定的に運営できるような報酬体系の整備を要望してきた。

 平成27年度には塩崎厚生労働大臣(当時)が「このゆびとーまれ」を視察し、「先駆的な取り組みの実態に触れ、大変勉強になった。課題の解決に向けて、何が必要か検討する」との発言があり、平成28年度には厚生労働大臣を本部長とする「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」が設置され、「対象者ごとに整備された『縦割り』の公的福祉サービスを『丸ごと』へ転換する」ことが示されるとともに、部局横断的な検討が行われた。

 その結果、平成29年5月、介護保険制度と障害福祉制度において、富山型デイサービスをモデルのひとつとして、高齢者と障害児者が同一の事業所でサービスを受けやすくする「共生型サービス」が創設され、平成30年4月からサービスが開始された。

 共生型サービスの開始により、〔介護保険の指定事業所〕+〔障害福祉の指定共生型事業所〕という組み合わせで事業を行うことで、これまで基準該当事業所が算定できなかった障害福祉の各種加算を算定することができるようになった。加えて、専門資格職(サービス管理責任者、保育士など)を配置すれば算定できる共生型サービス独自の加算が新設され、富山型デイサービス事業所の報酬体系が改善された。

 また、これまで障害福祉サービスを利用してきた障害者が65歳以上となった場合には介護保険サービスの利用が原則となるため、使い慣れた障害福祉サービス事業所から介護保険サービス事業所へと移らなくてはならなくなる、いわゆる「65歳の壁」があったが、共生型サービスの開始により、障害福祉サービス事業所が介護保険の指定共生型事業所となれば、この問題に対応できるようになった。

 (逆に、富山型デイサービス事業所でこれまで障害福祉サービスを利用してきた障害者は、65歳になっても事業所を変えずに介護保険サービスを利用することが可能であったため、富山型デイサービスには「65歳の壁」はこれまでも存在しなかったといえる。)

富山型デイサービス(共生型サービス)の全国への普及に向けて

 共生型サービスが開始された平成30年4月以降にも、他県で富山型デイサービスを開始したいと考えている人から「自分の住んでいる市役所に相談に行ったら、1つの事業所で高齢者と障害者を受け入れることはできないと言われた」という相談があったり、県外の自治体の担当職員から「富山型デイサービスでは高齢者と障害者を同じ施設で受け入れてもかまわないとなっているが、なぜそんなことが可能なのか教えてほしい」といった問い合わせがあったりすることも多い。共生型サービスの制度の普及が不足しており、行政の制度理解が進んでいないため、共生型サービス事業所の開設が進んでいないということが考えられる。

 そこで、富山県は国に対して、

  1. 共生型サービスの全国普及が図られるよう、自治体、事業者などに対する一層の啓発
  2. 高齢者と障害児者を同時にケアする事業所を対象とした人材育成研修など、サービスの質の向上に対する支援
  3. 共生型サービスが一層の安定運営を図ることができるような報酬体系の充実強化

──の3点を要望している。

 今後も引き続き、誰もが安心・幸せを感じる地域共生社会の構築に向けて、富山型デイサービス(共生型サービス)の県内外への普及について取り組んでいきたい。

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.88(PDF:4.5MB)(新しいウィンドウが開きます)

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