高齢社会における美容の役割
公開日:2019年6月21日 09時00分
更新日:2021年2月24日 13時54分
人はいくつになっても「きれいでありたい」と思うものです。しかし高齢になり病気や介護などがきっかけとなり、美容に対する意識や興味が薄れてしまう方は多いかもしれません。
高齢期における美容の役割
美容による心理的・身体的効果について
高齢になるにつれ美容から遠ざかってしまうのは、仕方のないことかもしれません。しかし高齢者にとっても美容を楽しむことは、QOL(Quality of Life=生活の質)を維持向上できる効果があることが、過去に行われた研究によって明らかになっています1)。化粧には、見た目をきれいにするだけでなく、気持ちを明るくするなど、精神的にも良い影響を与える効果があります。この効果を活用したのが化粧療法というものです。
高齢者にとって長期的な化粧療法の効果として、自信や幸福感が高まり、うつ感情や不安感情が軽減されることが分かっています。化粧をすることで、周囲の人から「きれいだね」と評価をされることが自信へとつながり、積極的に外へ出ようという気持ちになります。その結果、周囲の人との関わりも活発になり、心の健康が保たれるという良い循環が生まれるのです。
また、美容による身体的効果については、化粧をする細かな動作によって、加齢によって低下しつつある身体機能も維持、回復することができます。化粧療法は、高齢者自身が化粧することで身体的効果の面において効果があるとともに、リラックス効果や精神的な健康維持のためにも、自ら化粧をするほうがより効果があると言われています1)。
高齢社会における美容の関わり方
福祉美容とは
内閣府による平成30年版高齢社会白書によると、2065年日本の人口のうち約2.6人に1人が高齢者(65歳以上)になると予想されています2)。このように高齢化が進む現代において、医療や介護、福祉の現場では多くの課題や問題を抱えていますが、高齢者が安心して住み慣れた地域で生活できるように、高齢者を対象とした医療や介護のサービスは今後ますます必要とされることが予想されます。そのひとつとして、ニーズが高まっているものが高齢者や介護の必要な方などを対象とした美容、福祉美容というものです。
福祉美容とはヘアスタイルの業界を主に指しますが、その他にも化粧療法やネイル、エステ、男性にとってはハンドマッサージや耳毛、鼻毛、眉毛の手入れなど、福祉における美容サービスは幅広いものがあります。さらに、がん患者向けの医療ウィッグ、障害者の自立支援のための身だしなみやマナー指導なども福祉美容に含まれます。また、海外の途上国に赴きヘアサロン、マッサージの技術支援など、福祉美容は多様なニーズに貢献することができます。
このように、福祉美容といってもさまざまな分野がありますが、ヘアスタイルの業界においては、一般的に「福祉美容師」と呼ばれる専門的な知識や技術を身につけた美容師が施術を提供することができます3)。福祉美容師になるには、代表的な資格として「認定福祉美容介護士」や「福祉理美容師」など、NPOや厚生労働省認定の協会発行する福祉美容師に関する資格を取得しなければいけません。
福祉美容師とは、資格取得の条件として美容師資格を持っていることが前提となります。美容師、理容師の知識・技術に加え、介護福祉に関する正しい知識を身につけることで、高齢者や身体の不自由な方のためにより良いサービスを提供することができるのです。
訪問美容について
訪問美容とは、高齢化社会が進む中、外出することが困難な高齢者や要介護状態の方や、障害を抱える方、退院が間もない方などの自宅や、病院や施設に訪問し施術を行うものです。このように福祉関連のニーズ以外にも、妊娠中のママや子育て中のママ、怪我などの理由で美容室に行けない方たちへサービスが提供されています。
訪問美容は、介護福祉に関する知識を持った福祉美容師が自宅や介護施設等を訪問しヘアカットなどの施術を行いますが、東日本大震災の際には多くの福祉美容師が現地に赴き活躍したそうです。福祉美容師は訪問美容によって培ってきた経験により、一般的な美容師以上に現地の多様なニーズに応えることができたのです。
高齢社会において美容業界に求められること
以前の訪問美容といえば、ヘアカットが主体で、そのサービスは簡易的なものでしたが、高齢者の増加とともにニーズは高まり、求められるサービス技術のレベルも高くなっています。また、美容業界においては、若者だけでなく高齢者向けのサービスを充実させることは店舗の厳しい生存競争へのカギともなるでしょう。
平成24年(2012年)4月に施行された介護保険法改正は、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らすことができるよう、医療、介護などのサービスを提供する「地域包括ケアシステム」の実現を目的としています4)。施設から在宅ケアへの流れを目指すためにも、高齢社会における訪問美容の役割はますます大きくなっていくものと思われます。