第2回 梅干しの効果
公開日:2018年12月14日 13時16分
更新日:2019年2月 1日 20時53分
永山 久夫(ながやま ひさお)
綜合長寿食研究所所長
日の丸弁当のパワー
梅干しは、日本人のソウル・フード(魂の食)といってよいだろう。
戦中戦後の食糧難の時代に、「日の丸弁当」でがんばった。そして、飢餓の時代を乗り切った。弁当箱にご飯をぎっしりと詰め、真ん中にたった一個の赤い梅干し。
99.9パーセントは炭水化物で、酸っぱい梅干し一個がおかず。四角い弁当箱の真ん中の梅干しは、日の丸に見えた。
しかし、その梅干し一個の弁当を食べると、腹の底から力が湧き、少々オーバーワークをしても疲れを感じなかった。日の丸弁当は、不思議なエネルギーを産出する弁当だった。
それにしても、梅干しほど偉大なる酸味食はない。実にあっぱれだ。
色も鮮やかな赤色で、日本人好み。舐めただけで口がすぼみ、顔中の筋肉という筋肉がギューッと縮む。思わず眼を固くつむり、目頭に深いしわをつくってしまうほど。
それが梅干しの強烈な酸味で、同時にどっと唾液が出る。敏感な人だと、「梅干し」と聞いただけで、口の中が酸っぱくなり、唾液が湧く。
武士に欠かせなかった梅干し
梅干しの機能を知り尽くし、実戦に活用していたのが戦国時代の武士たち。兵法書によく「息合(いきあ)いの最上は梅なり」と出てくる。「息合い」というのは、呼吸を整えることで、激しい合戦や強行軍のあとの息切れを癒し、疲労を回復させるために欠かせなかった。
酸味のもとはクエン酸やリンゴ酸などの有機酸で、昔から梅干しの酸味を舐めると疲労回復に役立つことが知られていた。筋肉に溜まる疲労物質の乳酸を分解して、疲労のもとを除く働きがあるため。疲れたときには、一粒の梅干しが何より大きな疲労回復剤となったのである。
ところで、「朝茶に梅干し」という言葉がある。古くからのおばあちゃんの知恵。今でも元気で長生きしている人の中には、この習慣をしっかりと身につけている人が少なくない。梅干し入りの朝茶のことだ。
今日も長生き朝茶に梅干し
梅干しを軽く焼いて身をほぐし、お茶碗に入れ、熱々のほうじ茶や煎茶などをゆっくり注ぎ、フーフー吹き冷ましながら両手で持ち、ひと口、ふた口と楽しむ。すると生命の力が湧いて、体中に広がり「今日も一日人生を楽しむぞ」と気合いが入るのだ。
それからニコニコと、幸せホルモンのセロトニンが脳に満たされるような素晴らしい表情で朝ご飯が始まる。梅干しを焼くとムメフラールという血栓を防いだり、血行をよくする成分が発生するそうだ。
梅干しは、疲労回復ばかりでなく、日本人の老化防止食でもあったのだ。
(2017年7月発行エイジングアンドヘルスNo.82より転載)
転載元
公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.82