高齢者の社会的孤立の健康影響:アウトカムワイド研究の知見より
公開日:2025年1月18日 15時00分
更新日:2025年1月18日 15時00分
中込 敦士(なかごみ あつし)
千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門准教授
社会的孤立と健康
社会的孤立は健康とウェルビーイングに広範な影響を及ぼすことが知られている。例えば、これまで死亡、心血管疾患、がん、認知症、うつ、主観的ウェルビーイングなどの広範なアウトカムとの関連が報告されている。一方で、これらの報告は1つ、もしくは数個のアウトカムを検証した研究がほとんどである。近年、特定の介入や曝露因子がもたらす広範な影響を包括的に評価するアウトカムワイド研究が注目されており、社会的孤立を含む多様な介入や曝露因子において報告がされている。
本稿では、アウトカムワイド研究についての概要を説明し、次に日本人高齢者を対象にした社会的孤立のアウトカムワイド研究の結果をこれまでの既報とともに紹介する。
アウトカムワイド研究とは
アウトカムワイド研究とは、特定の曝露が複数のアウトカムに与える影響を同時に評価する研究デザインである(図1)。単一の曝露変数(例えば社会的孤立)に対して、多数のアウトカムを包括的に評価し、その影響の広範な理解を目指すものである。Harvard大学のTyler J. Vander Weeleらにより提唱され1),2)、日本でも同手法を用いた研究が広がりを見せている3),4),5)。
本章ではアウトカムワイド研究の利点・欠点、因果推論に基づいた研究デザインについて解説する2)。
1.アウトカムワイド研究の利点
(1)健康・ウェルビーイングの多面的な側面を捉えることができる
健康とは本来多面的な概念である。WHO憲章では「健康とは肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」6)と定義している。また、近年、「人の人生のすべての側面が良好な状態にあること」を「Human flourishing(人間の繁栄)」という概念で表し、例えばTyler J. VanderWeeleは下記の6つの領域を挙げている7):1.幸福と生活の満足度(Happiness and Life Satisfaction)、2.身体的および精神的健康(Mental and Physical Health)、3.意味と目的(Meaning and Purpose)、4.人格と美徳(Character and Virtue)、5.親密な社会的関係(Close Social Relationships)、6.財政的・物質的安定(Financial and Material Stability)。
アウトカムワイド研究では、健康を例えば身体的な健康などに限定せずに、多面的な健康・ウェルビーイングを捉えることができる。
(2)包括的評価が可能
介入や曝露が及ぼす影響はアウトカムにより異なることが想定される。例えば身体的健康には効果が少ないが、幸福や生活の満足度といったウェルビーイングには効果が大きい介入や曝露も十分に想定される。アウトカムワイド研究では、同一集団、同一の解析で効果推定を行うため、介入や曝露が及ぼすアウトカムへの影響を相互に比較することが容易となる。
また、介入や曝露による影響は必ずしも良いものだけとは限らない。例えば、ソーシャルキャピタルでは、健康・ウェルビーイングに良い側面と同時に悪い側面が存在することが知られている。アウトカムワイド研究ではそれらを同時に評価することが可能である。
(3)出版バイアスを防ぐ
アウトカムワイド研究では特定のアウトカムの結果が有意でなかった場合でも、論文としての報告を妨げる要因が少ない。有意な結果だけでなく、有意でない結果も同時に報告することは、研究全体のバイアスを低減し、透明性を向上させることができる。
(4)p-ハッキングの防止
アウトカムワイド研究では特定のアウトカムに着目するわけではなく、かつ共変量(研究やデータ分析で結果に影響を与える可能性のある要因)の選択もある程度枠組みに沿って行う。そのため、特定のアウトカムを恣意的に有意にするという動機が起こりにくいため、p値※1を操作するような統計的操作が起こりにくい。
※1 p値:統計的な結果が偶然によるものか、それとも「意味のある差」があると考えてよいのかを判断するための指標。0から1の間の数値で表され、多くの場合0.05以下であれば「偶然ではない」と判断されることが多い。
2.アウトカムワイド研究の欠点
(1)モデリングの自由度が減る
統一された共変量を使用するため、研究者のバイアス(望ましい結果を得るためにモデルを変更するなど)を減らせる一方、個別化した解析に向かない。
(2)深い議論が難しい
1つの研究で得られる知見が広範であるがゆえに、各アウトカムについての詳細な検討が薄れる場合がある。
(3)多重比較の問題
多数のアウトカムに対して統計的検定を行うため、多重比較による偽陽性のリスクが高まる※2。ボンフェローニ補正などの調整が必要となるが、補正が厳しすぎると本来の効果を見逃すリスクもある。
※2 多重比較による偽陽性のリスク:効果がないのに、偶然の結果で効果があると判断されてしまうリスクのこと。多くの検定を行うと、その中でたまたま有意な結果(p値が低い結果)が出てしまう確率も増えるため、「効果があるように見える偽の結果」が出やすくなる。補正法の1つにボンフェローニ補正がある。
3.因果推論に基づいた研究デザイン
アウトカムワイド研究では、逆因果・未測定交絡の軽減のために、共変量として
- 介入・曝露の前の時点の交絡因子
- 介入・曝露の前の時点の曝露変数
- 介入・曝露の前の時点のアウトカム変数
を調整することを基本とする。調整変数が膨大となってしまうため、「介入・曝露の前の時点」から変数を選択することが重要である。仮に時間的に介入・曝露変数と同時、もしくは後に評価された変数を用いると、それらの変数は介入・曝露因子によりすでに影響を受けている可能性があり、媒介因子の調整=過調整のリスクにつながる。そのため、
・共変量→介入・曝露→アウトカム
の時間の流れと整合した変数選択が好ましく、少なくとも3時点の縦断データが必要となる(図2)。
孤立のアウトカムワイド研究
これまで、社会的孤立のアウトカムワイド研究は日本の高齢者を対象にしたものと、アメリカの高齢者を対象にしたものの2本が行われている。本稿では特に日本でのアウトカムワイド研究の知見を中心に紹介する4)。
1.データ・解析方法
本研究は日本老年学評価研究(JAGES)に参加した全国34,187人(一部47,318人)を2016年から3年間追跡したものである。
曝露変数は社会的孤立で、配偶者(結婚していない、またはパートナーと同居していない)・子ども(子どもと同居していない、または子どもからのサポートがない)・親戚(親戚からのサポートがない)・友人との交流(月1回未満しか会わない、もしくは友人からのサポートがない)・社会参加(社会参加していない)の5つの指標を2016年度調査で評価している。社会的孤立は、これら5つの指標のうち該当するものの合計点とし、さらに各々の指標を個別にも評価した。また、2019年時点の健康・ウェルビーイング指標として、Human Flourishingを参考に6つの分野(1.身体/認知的健康、2.健康行動、3.精神的健康、4.主観的ウェルビーイング、5.社会的孤立、6.ソーシャルキャピタル)から計36指標を評価した。共変量として、2013年度調査から評価した交絡因子(性別、年齢、教育歴、等価収入、就労状況、婚姻状況、独居、人口密度、ADL)、曝露変数(社会的孤立)、および6つの分野のアウトカム変数で調整している。
2.結果
(1)社会的孤立と健康・ウェルビーイングとの関連
5つの指標のうち4つ以上該当する場合、1つも該当しない場合と比較して死亡リスク1.9倍、認知症1.6倍、介護リスク1.5倍、他、抑うつ、幸福感、希望、歩行、健診受診など様々な指標との関連が明らかとなった。これらは、これまでの既報とも概ね一致している。例えば、メタアナリシスにて社会的孤立と死亡8),9),10)、認知症11)、うつ12)などとの関連が報告されている。一方で、幸福感、希望といったウェルビーイングや、歩行、健診受診といった健康行動との関連はこれまで報告は多くなく、本アウトカムワイド研究にて新たに明らかになった結果である。
(2)社会的孤立の個別指標と健康・ウェルビーイングとの関連
配偶者(結婚していない、またはパートナーと同居していない)・子ども(子どもと同居していない、または子どもからのサポートがない)・親戚(親戚からのサポートがない)・友人との交流(月1回未満しか会わない、もしくは友人からのサポートがない)・社会参加(社会参加していない)の5つの指標のうち、友人との交流・社会参加で広範な健康・ウェルビーイング指標との関連が認められた。配偶者・子ども・親戚からの孤立による影響は、全体としては有意なものは少なかったが、性差や年齢による違いが示唆された。例えば、配偶者からの孤立は男性では低い人生満足度と関連する一方で、女性では高い人生満足度と関連が見られた。
結論
本稿では、新たな研究手法としてアウトカムワイド研究を紹介し、社会的孤立が健康・ウェルビーイングに与える影響を包括的に評価したアウトカムワイド研究の結果を概説した。従来報告されていた結果を追試できた一方で、新たな知見も創出されたことは重要な意義を持つ。また、友人との交流や社会参加が他の家族や親族からの孤立よりも強い関連を示すことも明らかとなった。交流や社会参加を増やす施策は介入の実現性も高く、今後のさらなる拡大が期待される。一方で、家族や親族からの孤立は性差や年齢による違いも確認され、個別の対応が重要であることが示唆される。
謝辞
本稿で紹介した知見は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(22lk0310087h0001)の助成を受けて実施したものである。記して深謝します。
文献
- VanderWeele TJ.: Outcome-wide Epidemiology. Epidemiology. 2017; 28(3): 399-402.
- VanderWeele TJ, Mathur MB, Chen Y.: Outcome-Wide Longitudinal Designs for Causal Inference: A New Template for Empirical Studies. Statist Sci. 2020; 35(3): 437-466.
- Nakagomi A, Shiba K, Kawachi I, et al.: Internet use and subsequent health and well-being in older adults: An outcome-wide analysis. Computers in Human Behavior. 2022; 130: 107156.
- Nakagomi A, Tsuji T, Saito M, Ide K, Kondo K, Shiba K.: Social isolation and subsequent health and well-being in older adults: A longitudinal outcome-wide analysis. Social Science & Medicine. 2023; 327: 115937.
- Ide K, Nakagomi A, Tsuji T, et al.: Participation in community gathering places and subsequent health and well-being: an outcome-wide analysis. Innovation in aging. 2023; 7(9): igad084.
- VanderWeele TJ.: On the promotion of human flourishing. Proc Natl Acad Sci U S A. 2017; 114(31): 8148-8156.
- Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB.: Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review. PLOS Medicine. 2010; 7(7): e1000316.
- Holt-Lunstad J, Robles TF, Sbarra DA. Advancing social connection as a public health priority in the United States. Am Psychol. 2017; 72(6): 517-530.
- Wang F, Gao Y, Han Z, et al.: A systematic review and meta-analysis of 90 cohort studies of social isolation, loneliness and mortality. Nature Human Behaviour. 2023; 7(8): 1-13.
- Penninkilampi R, Casey AN, Singh MF, Brodaty H.: The Association between Social Engagement, Loneliness, and Risk of Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Alzheimers Dis. 2018; 66(4): 1619-1633.
- Schwarzbach M, Luppa M, Forstmeier S, König HH, Riedel‐Heller SG.: Social relations and depression in late life--a systematic review. International journal of geriatric psychiatry. 2014 ; 29(1): 1-21.
筆者
- 中込 敦士(なかごみ あつし)
- 千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門准教授
- 略歴
- 2007年:千葉大学医学部卒業、国保松戸市立病院初期研修医、2009年:多摩南部地域病院循環器内科医員、2010年:千葉県循環器病センター循環器内科医員、2015年:千葉大学大学院医学薬学府循環器内科学博士課程(環境健康科学専攻)修了、千葉大学医学部附属病院循環器内科医員、2019年:武見フェロー(ハーバード公衆衛生大学院)、2021年:千葉大学予防医学センター特任助教、2023年:同特任准教授、2024年より現職
- 専門分野
- 社会疫学
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