医学的に理想の体重とは
公開日:2016年7月25日 16時00分
更新日:2023年8月 3日 13時07分
メタボリックシンドローム対策のための食事と健康の関係
メタボリックシンドロームとは、内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい病態です。心臓病や脳卒中は、日本人の死因の上位を占めています。この2つの病気は、いずれも動脈硬化が原因で起こることが多くなっています。動脈硬化を起こしやすくする要因(危険因子)としては、高血圧・喫煙・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)・肥満などがあります1)。そのため、メタボリックシンドローム対策とは、減量や肥満の是正が推奨されています。
メタボリックシンドローム対策において、エネルギーの過剰摂取が内臓脂肪を増やし肥満の原因2)になるため、「食べ過ぎない」ようにすることがとても大切です。また、食事において、単に脂質だけ、炭水化物だけという限定した栄養素のみを制限してしまうと栄養バランスが崩れてしまいます。厚生労働省による「日本人の食事摂取基準2020年版」ではエネルギーをはじめ、各栄養素の摂取量の基準値を定めています3)。各栄養素に偏ることなく、多様な食品を摂取することで結果的に栄養バランスの良い食事となります。
痩せていれば健康に良いのか4)
健康づくりにおいて肥満は糖尿病や動脈硬化をはじめとする心疾患や脳血管疾患など生活習慣病を引き起こします。そのため減量をしたり、日々の生活で体重が増えないようにしたり肥満対策を心掛けている方もいます。しかし、肥満だけが病気の引き金になるだのではなく、実は痩せすぎも健康への影響はあります。
成人では国際的な標準指標であるBMI(Body Mass Index:体格指数)を用いて肥満の判定を行います。
BMIの求め方
BMI=体重(kg)÷身長(m)の2乗
BMI(数値の範囲) | 肥満度の判定 |
---|---|
18.5未満 | 低体重 |
18.5以上25未満 | 普通体重 |
25以上30未満 | 肥満(1度) |
30以上35未満 | 肥満(2度) |
35以上40未満 | 肥満(3度) |
40以上 | 肥満(4度) |
BMIが25以上は肥満と判定され、生活習慣病のリスクは高まります。またBMIが18.5未満の低体重、いわゆる痩せ(るい痩)も体調不良や病気のリスクが高まります。
近年では若い女性の痩せが増加しています。急激なダイエットや食事の偏りが原因で、鉄欠乏性貧血、月経不順が生じます。またやせ願望から神経性食欲不振症(拒食症)をも招きます。さらにBMIが18.5未満の女性の新生児は出生時体重が2,500g未満の低体重児が多いです。低体重児は胎児のときに十分な栄養を補っていないため、成長にするにつれ生活習慣病のリスクが高くなるとも言われています5)。
高齢者ではコレステロールなどの血液検査の結果が気になり、油脂類を極端に減らしすぎたり、身体的機能が低下したり、食欲低下や食事量が減少したりすることで、体重が減ります。高齢者でBMIが18.5未満になると低体重の状態になりのリスクが高まり、免疫力の低下、創傷治癒遅延、筋力低下による転倒から寝たきりなどの状態を引き起こしやすくなります(リンク1)。
高齢者の低体重のリスク6)
高齢者にとって低体重は、さまざまな健康障害に直結する危険性があり注意が必要です。低栄養や筋力低下などにより健康を崩しやすく、介護が必要になる前段階の状態を「フレイル」といいます。フレイルの状態が続くと、向こう3年間くらいの間に、フレイルでない場合と比較して以下のような「健康障害の危険度」が増加することが分かっています。
- 転倒の発生:1.3倍
- 移動能力の悪化:1.5倍
- 日常生活での自立度の悪化:2.0倍
- 初回入院:1.3倍
- 死亡:2.2倍
また、低栄養に陥ることでリスクが高まる疾患には、がん、慢性心不全、慢性腎臓病、慢性呼吸器疾患などがあります。
年齢別の理想的な体重とは
体重と疾患を見てみると、男女とも標準とされるBMIが22だと肥満と関連する糖尿病、高血圧、脂質異常症などの病気に最もなりにくいとされています7)。
標準体重は以下の計算式で求めます。
標準体重の計算式
標準体重(kg)=身長(m)の2乗×22
厚生労働省が発表している令和元年度の国民健康・栄養調査の結果では、65歳以上の高齢者の低栄養傾向の者(BMI≦20kg/m²)は男性12.4%、女性20.2%と、この10年間では男女とも有意な増減はみられないものの、年齢階級別でみると85歳以上男性17.2%、女性27.9%と、男女ともに低栄養傾向の者の割合が高くなっています8)。
食事摂取基準2020では18歳以上では目標とするBMIの範囲を年齢ごとに定めています(表2)3)。
年齢(歳) | 目標とするBMI |
---|---|
18~49 | 18.5~24.9 |
50~69 | 20.0~24.9 |
70以上 | 21.5~24.9 |
肥満のBMIの上限は各年齢とも同じですが、低い基準は年齢ごとで異なります。特に高齢者では、フレイル(虚弱)の予防と生活習慣病の予防の両方を配慮し、BMI21.5以上が目標となっています。
生活習慣病予防からフレイル予防へのギアチェンジ3)
近年、20歳から60歳の現役世代の過剰なエネルギー摂取による肥満症、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病が予防するべき問題として重要視されてきました。一方、75歳以上の後期高齢者においてはフレイル予防が重視されてきています。フレイルは必要な栄養素が不足している低栄養などが原因で誘導され、高齢者に与える健康障害への影響も大きく、早期からフレイルを予防することが大切です。
そのため、70歳前後で生活習慣病予防からフレイル予防へのギアチェンジが必要と考えられています。ギアチェンジの時期は、エネルギー制限を意識した食事から、適切なエネルギー摂取を意識する食事への変換が必要です(図)9)。
しかし、「フレイル予防」は栄養のみならず、運動や服薬にも関わる個別対応が大切な課題であり、高齢期のQOLに関わります。
フレイル予防のために積極的に摂取したい栄養素
フレイル予防のために積極的に摂取したい栄養素は主にたんぱく質、ビタミンD、カルシウムです7)。
たんぱく質
骨格筋量や筋力など、身体機能に大きく影響するたんぱく質は、摂取量とフレイルのリスク低下との関連が見られることが分かっています。良質なたんぱく質を毎食25~30g程度摂取することが、フレイル予防には望ましいとされています。しかしながら腎機能の低下した高齢者については、高たんぱく食は腎機能へ影響するため注意が必要です。
ビタミンD
ビタミンDは、カルシウム代謝や骨の代謝に密接に関わりがあり、特に高齢者にとっては骨粗しょう症の予防として注目される栄養素です。また、ビタミンDは紫外線を浴びることで皮膚でも産生されることから、適度な日光浴も効果的です。
カルシウム
骨をつくる栄養素であるカルシウムは、摂取量が少ないと骨密度の低下を引き起こしてしまいます。骨粗しょう症や骨折を予防するためのカルシウム摂取推奨量は、1日あたり700~800mgとされています。また、適度な刺激を与えることで骨は強くなる性質があります。カルシウム摂取とともに、ウォーキングなどの適度な運動を心がけることも大切です。
そのほかには、細胞の維持を助けるビタミンE、折れた骨や傷の修復を助けるビタミンC、赤血球や体蛋白の合成を助ける葉酸などがあります。フレイル予防には、多くの栄養素を摂取することが必要です。そのためにも、さまざまな食品を食べること、日頃から主食・主菜・副菜のバランスの取れた食生活に気をつけることが大切です。